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*鏡のキス

 イタリア共和国北西部の州、ロンバルディア州。州都はミラノ。

 そのモンツァ・エ・ブリアンツァ県にソフィアは訪れた。県都は、ロンバルディア州第3の都市モンツァ。

 F1サーキットがある事で知られる都市でもあり、フェラーリの聖地とも云われる。

 オレンジ色の屋根の多い街並みは、どこかしら自分の国を思い起こさせる懐かしさがあった。

 その小さな街の一角、「ん~こっちね」と渡された地図を見ながらトボトボと歩いていた。

「! あっ……」

 見慣れた背中に自然と足が速くなる。

「ベリル!」

「!」

 振り返った姿は確かにベリル、懐かしさに思わず飛びついた。

「ソフィアか」

 さして高揚のない声、いつもの彼の声に嬉しさがこみ上がる。

「! 切ったのか」

「あ、うん」

 その姿は、彼と同じヘアスタイル……小型版ベリルのようだ。彼女はガラスに移った自分の姿にベリルを重ねた。

 その瞳は緑だが、どちらかといえば翡翠を思わせる。彼を慕う心を、姿を似せる事で伝えていた。

「……」

 彼は数秒、沈黙したあと小さく溜息を吐き口を開く。

「何故、お前が来た」

「え?」

 眉をひそめてソフィアを見下ろす。

「私が依頼した者ではない」

「……っ」

 拒絶されたような感覚になり一瞬、喉を詰まらせたが振り絞るように声を張り上げた。

「あたしだってもう一人前よ!」

「!?」

 彼の首に腕を巻き付けて、その唇に自分の唇を重ねた。

「……そのようだな」

 呆れたような声を発する。

「だが」

「!?」

 彼はさらに深い口づけを与えた。

「……」

 ちょ……っ、待って……! だめだめだめ! こっ、このキスは例のあの……!? ヤバい、腰が砕けそう……

「気配の読みはまだまだだ」

 とろんとした目の彼女の耳元でぼそりとつぶやく。

「え……?」

 瞬間──

「!」

 ヒュッ! という音が聞こえた。

「ぐっ」

「えっ!?」

 背後から男の叫びで我に返るソフィアの目に、左脇からハンドガンを引き抜くベリルの姿が──素早く振り返り、彼女の目の前で知らない男が彼の銃弾を右太ももに受けて倒れ込む。

「えっ? えっ!?」

 状況が飲み込めず、前後で倒れ込んでいる男2人を交互に見やる。初めに聞こえた叫び声の男は、右腕にナイフが刺さっていた。

「!」

「あ!」

 何かに気づいて足を速めた彼の後ろを追いかける。

「まったく……とんでもない事をしてくれる」

 少しの怒りが見て取れた。ルーシーのはからいが、逆に彼を怒らせてしまったようだ。

「な、なんでそんなに怒ってるの? ただこれを運んできただけだよ」

 首に下げているチョーカーを示す。

「たった今、遂行中の作戦に重要なものだ」

 そのチョーカーを受け取りながら説明する。

「待って!」

 トランプ形のチャームをポケットに入れようとした彼を制止した。

「?」

 チョーカーを奪い発する。

「これは首を飾るものよ」

「……」

 言いもって彼の首にチョーカーを付けた。

 元々これはチョーカーではなくマイクロチップを運ぶためのものだろう……という彼の意見は却下された。

「で、遂行中の作戦て?」

 気を取り直して問いかける彼女に目を据わらせる。

「お前の仕事は終った」

「ええー!?」

「……と言いたいが」

 歩きながらバックポケットから携帯を取り出して、どこかにかけ始めた。

「ローラ、イタリアのモンツァだ。近い者を頼む」

「?」

 彼は説明する事もなく歩き続けた。

 ローラという情報屋に自分のGPSを辿らせ、そこから近い仲間を教えてくれ……という事だ。

「ひとまずホテルに向かう」

 携帯を閉じて足早に歩き数分後、クリーム色の壁のホテルにたどり着いた。部屋のカードキーをフロントで受け取り、エレベータに向かう。

スーツ姿の男性2人とエレベータに乗り、しばらくして──

「ぐえっ!?」

「うっ!」

「えっ!? なにっ?」

 後ろにいた1人がスーツの内ポケットに入れていた手を出そうとした瞬間、ベリルがその男に左の肘を顔面に炸裂させた。

 途端に、前にいた男が振り返って彼に銃口を向けたがその手は彼の足裏と壁に挟まれ、呻き声をあげる。

──チン!とエレベータの扉が開き、呻いている男を押し出してあごを殴り脳を揺さぶって気絶させた。

 その首根っこを掴んでエレベータの中に放り込むと、ドアは無造作に閉まり下に降りていった。

「……」

 唖然とそれを見送り、スタスタと歩いていく彼のあとを慌てて追いかける。

「いっ、今のって?」

「敵だ。気配の読みはまだまだと言ったろう」

 11階508号室にカードキーを細い溝に滑らせドアを開く。

 ほぼ一般的な間取りだ。彼女を革張りのブラウンのソファに促して小型の冷蔵庫からジュースを取り出し、グラスに注いで手渡す。

「! ありがと……」

 ひと口、味わい小さく溜息を吐く。

「一体、どういうこと?」

「中東で作戦遂行中だ。私はチップを受け取る役目でここに来た」

「ベリルが要請されたの?」

「私は受け取る者として依頼された」

「……」

「……」

 2人の間に沈黙が過ぎる。

「それ以上は教えてくれないってこと?」

「当然だ」

 お前が受けた仕事はチップの運搬のみ。と、ぴしゃりと告げられる。

「ケチ」

「そういう問題ではない」

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