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*その鼓動

「真冬ならロングコートだったのになぁ~」

 と、残念そうにつぶやく。

「ヒトで遊ぶな……」

 着ていた服を買った店の紙バッグに詰めて歩きながら溜息交じりに発した。

「すっごくカッコイイよ」

「褒めても何も出ん」

 げんなりしている彼の腕に自分の腕を絡める。

「!」

「ね、こうしてると恋人同士みたい」

 嬉しそうに笑う彼女を無言で見下ろした。ホテルのレストランで夕食を食べ、街のライトアップを眺めてそれぞれの部屋にもとる。……しかしソフィアは暇だった。

「する事が無い」

 いや、もうあとは寝るだけなんだけど寝付けない。

「はぁ~……」

 ベリルさん、まだ起きてるかな? ソフィアはふらりと立ち上がり、ドアを開いた。


 そんなベリルはベッドに腰掛けてハンドガンの手入れをしていた。

「!」

 ノックの音にドアを開く。

「どうした」

「なんか眠れなくて……」

「しばらく待て」

 ソフィアを中に促し、ベッドの上にあるハンドガンを手早く組み立てる。

「……」

 それを見ながら向かいのベッドに腰を落とした。彼は組み立て終るとインスタントコーヒーを入れて、それを紙コップに注ぎ彼女に手渡す。

「ありがとう」

 そのあと、しばらくの沈黙……

「……」

 ど、どうしよう……話すコトが無い。何か話題は無いかしら。

 彼に視線を送ると、足を組んでどこを見るともなくただ黙って向かいのベッドに座っているだけだ。

「苦しくはないか」

 考えあぐねている彼女よりも先に口を開いた。

「え?」

 コーヒーを傾けていた視線を上げる。

「お前から父を奪った私を憎む事も出来るのだぞ」

「! そんなコト……っ」

 声を詰まらせる彼女を見つめて続ける。

「お前はそうしなかった。それが返ってお前の重荷になるのなら、それは私の望むものではない」

「……っ憎まれてもいいって言うの?」

「人が前に進む力はそれぞれだ」

「そんなコト……出来るワケ無いじゃない。好きなんだから」

「それは恋や愛ではないよ」

「あたしは本気なのに! 父さんばかりについていく子どもじゃない! あたしはもう大人なのよ!」

 ソフィアはそう言って紙コップを投げ捨てて抱きついた。

「好き……」

「……」

 無言の時間が続く──何も応えない彼に顔を近づけた。

「!」

 しかし、それは拒絶される。

「だったら、優しくなんかしないでよ! バカバカバカ!」

「……」

 小刻みに胸を叩く彼女に目を細める。

「ベリルのバカぁ!」

 わぁん! と彼の胸に飛び込む。泣きじゃくる彼女を優しく抱きしめ、頭をゆっくりとなでた。


 しばらくそうして泣いていた彼女の耳に心臓の音が響く。

「……」

 不死……

「本当に死なないの?」

「そうだ」

 心臓の音も、温もりも同じなのに彼は死なない。

「一杯、痛い思いした?」

「数え切れない程ね」

 死ねないってどんな感じなんだろう。あたしには解らない……その温もりにまどろみながら意識を遠ざけた。


 次の日──

「……」

 ばつが悪そうにベリルの隣を歩く。観光中なのだが、昨日の事が思い出されて顔を伏せた。彼はいつもと変わらずに接してくれているが、まるでだだっ子のように感情をぶつけた自分が恥ずかしかった。

「こういうトコが子どもなのよね」

「ん?」

「なんでもない!」

 慌てて首を振る。そして、どこまでも優しい彼に涙が出そうになった。昨日、買った服を着てくれている。


 数日をシドニーで過ごし、帰りは飛行機でダーウィンに戻った。

「あー楽しかったぁ」

 家に入って大きく伸びをする。

 まだそんなに長くいる家じゃないのに、懐かしく思えるのは不思議だ。あと2ヶ月くらいでこの家ともお別れなんだな。

 ベリルともお別れ……突然に襲われた不安に肩を落とした。


「鍛えてください」

 次の朝──朝食の準備をしている彼に発した。

「どうした」

 突然の申し出に眉をひそめる。

「あたしはここに居候しに来たんじゃありません。あなたの弟子にしてもらうために来たんです」

 最後まで弟子として鍛えてください。

「……」

 険しい瞳を向ける彼女を見つめた。

「お願いします」

 このままリリパットの人に引き渡されるのは簡単だ。でも、彼の優しさに甘え続けていいハズがない……生半可な気持ちでこの世界で生きられる訳は無いんだ。

 彼への気持ちも本気なんだ。あたしはそれを彼に認めさせる。

「加減はしない」

「うん」

 あたしは彼との記憶を刻みつける。

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