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*静かな攻防戦

 夕暮れ間近バリングラ近くに到着した。

 そこで見せられたものは──

「これ……なんですか?」

「バレットM82」

 ヘリコプターや軽装甲車両を狙撃する全長1m40cmを越える対物狙撃銃アンチマテリアルライフル、重量は優に12kgを越える。

 その二脚を膝までの高さの岩にドッカリと据えて、何もない方向に銃口を向けた。

「これを見せるのに誰もいない場所を探していた」

 発してオペラグラスを彼女に手渡す。

「うへ~」

「こいつの持ち運びは比較的楽だ。リリパットの仕事でもお目にかかる可能性は高い」

 50口径(12.7ミリ)弾を使う怪物スナイパーライフルだ。彼はスコープを覗き、引鉄ひきがねを引いた。

 数秒後、遠くの地面に小さく土煙が舞う。

「あの距離でも殺傷能力がある」

 狙ったのは1km先──約2秒で到達する。一通りの説明を終えてバレットM82を荷台に仕舞い、夕飯の準備を始めた。

「……」

 ソフィアはそろ~……と、荷台の端にある草色のシートの端っこを持ち上げた。

「わ……」

 そこには、バレットM82だけではなくライフルが2つと、ショットガンや大きな縦長のケースがあった。

 彼は苦笑いを浮かべて持ち上げたシートを降ろす。

「ごめんなさい……」

「構わんよ」


 夜──

 星空を仰ぎながら、オレンジに揺らめくたき火の炎に照らされたベリルを見つめる。

「それって、飲酒運転にならないの?」

「ん?」

 ベリルの手にあるブランデーを指さす。

「判断力を鈍らせるほどは飲まんよ」

「そか」

 そういえば、いつもグラス1杯くらいしか飲んでない気がする。

「今日くらい多めに飲んでもいいんじゃない? 折角の旅行なんだし」

「ん? うむ、そうだな」

 なんとなく彼の愁いを帯びた姿をもう少し見たくて言ってみた。

 時折、吹く風が彼の短い髪をなでるように滑っていくのが、見惚れるほどキレイだ。


 彼女はまた荷台で寝ようと彼に持ちかける。

 車の背に背中を預けて、静かな寝息を立てている彼の顔をそ~……っとのぞき込んだ。両腕を組んで、毛布を羽織っているだけで服装はいつもと同じ。

 触れると気づかれそうで、必死に触れないようにのぞき込む。

「……」

 い、今ならキス出来るかも!? なんてよこしまな思考が過ぎる。少しずつ顔を近づける。

 もう少し……という処で──

「何の真似だ」

「!?」

 ベリルが目を開いた。

「あ、あら……気がついてた?」

 苦笑いを返したソフィアだったが、バレたんなら仕方がないとばかりにのし掛かるように顔をさらに近づける。

「! よせ」

「キスくらいいいでしょ」

「や・め・ん・か!」

「んぎぎぃ~……っ」

 ──数分後。

「諦め悪いわね!」

「どっちがだ!」

 息を切らせて彼を見つめたあと瞳を潤ませた。

「!」

「いいじゃないキスくらい! ベリルのケチ! わあぁーん」

「……」

 泣きじゃくる彼女をしばらく見つめ、目を据わらせる。

「嘘泣きは通じんぞ」

「……バレたか」

 ペロッと舌を出すソフィアに軽く頭をこづいた。

「いいから寝ろ」

「はぁい」

 生返事をして寝袋に入るため、体勢を立て直すフリをしてベリルにすかさずキスをした。

「!」

「おやすみなさぁーい」


 次の日はバリングラとその周辺の観光──荒野にぽっこりと盛り上がった大きな岩に言葉もなく眺める。

「……」

 凄い。凄いけど……

「周辺にはワイルドフラワーが群生している」

「わ、可愛い」

 色とりどりの小さな花に顔がほころぶ。

 ベリルはそれに目を細めた。バリングラに対する反応が薄い事は解っていた。グランドキャニオンやナイアガラの滝のような壮大なスケールは正直、この世界一の一枚岩には無い。

 ただ静かに、そこに存在する岩……ベリルは赤い荒野に佇むこの揺るぎない巨大な岩が好きなのだ。

 国立公園をしばらく歩いたあと、ウルル(エアーズロック)に向かう。

「……」

 次も同じような岩なのかなぁ……彼女は退屈そうにあくびをしたが、ベリルと一緒にいられる事は嬉しくてそれを考えると楽しかった。

 何も無い赤い荒野、考える時間は無限にある。

 昨日の夜はちょっと強引だったかしら。告白すらしてないのに、なんであんなコトしたかなあたし。と過ぎていく風景を眺めながら考える。

 告白してなくても、なんかもうすでに彼はあたしの感情を知ってるみたいだし。それ知っててあえてスルーを決め込むなら、あたしだってガンガン攻めるわよ! ……という彼女の決意にはまったく気づかず、彼は車を走らせる。

 途中にあるガソリンスタンドで補給や食糧を調達し、ウルルに到着した。

「……」

 うん、バリングラよりはいい感じかも。やっぱりのっぺりとした岩だけど。

 ベリルはさして興味を示さない彼女に一瞥して小さく笑い、ここでもしばらく歩いたあと少しのサバイバル術を教えてシドニーに進路を取った。


 次はいよいよオペラハウスだ! と、ウキウキした。街も何日ぶりだろうと心がはやる。シドニーに近づくにつれ、雰囲気は賑やかになっていった。

「わあ!」

 美しい風景がソフィアを歓迎するように建ち並んでいた。

 オーストラリア南東部に位置するニューサウスウェールズ州の州都。人口はオーストラリア最大である。

「あれがオペラハウス!?」

「そうだ」

 貝殻やヨットの帆を思わせる白いコンクリート・シェルが、美しい曲線を描いて太陽に輝いていた。

 他にも観光する場所が沢山あり、どこに行こうかと観光ガイドを必死に見つめる。ひとまず予約しているホテルに向かいチェックインを済ませた。

「!」

 渡された鍵を見つめて少し残念そうに小さく溜息を漏らす。

「やっぱ別々の部屋なのかぁ」

 当り前といえば当り前な気もするけど……少しは期待した。

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