*お邪魔虫
たき火を消して、寝るために車に向かう──
「! わあっ……」
空を見上げて感嘆の声を上げる。そこには満天の星、降り注ぐ天の光がまぶしくソフィアの目に飛込んできた。
「……キレイ」
目を細めてつぶやく。
「荷台で寝るかね」
「えっ?」
「寝袋がある」
荷台にある寝袋を指し示した。
「あの星座は?」
「ん、あれは……」
寝袋で荷台に寝ころぶ彼女の隣で、毛布を腰までかけて問いかけに応えていく。
「ベリルさんてモノ知り~」
「……」
コロコロと笑う彼女を見つめて頭を優しくなでた。
「!?」
びっくりしたが、その手の温もりにいつの間にか意識は遠のいていた。
次の朝、手早く朝食を済ませ車は道を外れて荒野を走る。
「近道だ」
ベリルがそう言い、カーナビは向かう方向を示した。
「このカーナビ、声が無いんですね」
そう発したとき──
「さっそくお出ましか」
「え?」
バックミラーを一瞥した彼につられて後ろを向く。
「!」
小さな影が凄いスピードでこちらに近づいてくる。
「すまんが邪魔が入った」
「え……?」
その影は大型のジープで、こちらにぶつける勢いで接近してきた。
「掴まれ」
「えええっ!?」
黒いジープは容赦なくぶつかってきた。
「きゃああぁ!」
「止まっても車からは出るな」
そう発すると車を止めて外に出る。それに驚いたが、向こうのジープからも男が3人ほど出てきて無意識に身をかがめた。
サンドカラーのミリタリー服に身を包んだ3人の男は、歩いて近づいてくるベリルにハンドガンとライフルを向ける。
ソフィアはどうしていいのか解らず、その光景を眺めているしかなかった。そんな彼女の耳に、微かに会話が届く。
「何の用だ」
「言わなくても解ってるだろう」
「大人しく来い」
「!」
どうして? ベリルさんが何か悪いことしたの?
「いい加減、諦めたらどうだ。私を捕らえた処で不死など得られはしない」
「!?」
えっ!? ソフィアはついガバッ! と起き上がってベリルの背中を見た。
「中にいるのはお前の女か?」
「知人の娘だ」
「!」
やばっ! つい見ちゃった。目が合っちゃった……「しまった~」と頭を抱え、またそろり……とのぞき込む。
「従わないならあの娘を撃つ」
ハンドガンを手にしている男が、ベリルの車に銃口を向けた。
「!」
ちょっ……!? なに、こっちに銃向けてんのよ!
「……」
ベリルは自分の車を一瞥し1度、目を閉じて男に向き直った。口の端を吊り上げ、不敵な笑みと共に無表情に言葉がつむがれる。
「やってみたらどうだ」
「! 何!?」
「本気か? きさま」
男たちが驚くのも当然だ。ソフィアも耳を疑った。
「嘘だと思うな」
ギロリと睨み付け、その引鉄を引いた。
「きゃっ!?」
弾丸は甲高い音を立てて、一瞬の火花を散らし跳ね返る。
「! ……特殊ガラスか!?」
「残念だったな」
刹那──ベリルはライフルを手にしている男の膝に蹴りを入れた。
「ぐおっ!?」
痛みでかがんだその頭にひじうちをかまし、ライフルを奪い取って投げ捨てる。
「!? きさまっ!」
次にハンドガンを持っている男の銃を左手で掴み、そのあごに右肘をお見舞した。
「なっ!?」
残った1人が慌ててナイフを取り出すよりも速く、スローイングナイフを近距離から右腕に投げ刺した。
「うわっ凄い!」
鮮やかな動きに車の中で思わず声を上げる。
「くっ、くそ!」
3人の男たちは自分たちの車によろよろと戻り、その車を盾にしてライフルやハンドガンを構えた。
ベリルは男たちの様子を一瞥し、ピックアップトラックに駆け寄って荷台をあさる。
「!」
「まだ出るな」
その手に握られているものは──
「!? 車から離れろ!」
慌てて1人の男が声を荒げた。ニヤリとしたベリルの手から、黒い物体が投げられる。
それは車のボンネットにゴン! という音を立てて乗っかると数秒後……ボンネットが凄い音を響かせて爆発した。
「しゅ……手榴弾? ひえぇ~」
煙を上げる車を唖然と見つめた。
「……」
「まだやるかね?」
動かなくなった車を呆然と見つめる3人の男たちに、口角を上げて言い放つ。もはや、男たちの戦意は喪失していた。
「組織の名は」
「……」
立ち上る煙越しに問いかけるが、男たちは沈黙したまま睨み付けた。
「黙っていれば解らないと思うのは浅はかだ」
「覚えていろ……必ず捕まえる」
「迅速に終わらせる」
「出来る訳が無い!」
その言葉に一度、喉の奥から笑いをこぼした。
「いつから私を監視していた。接触した時点ですでに組織は壊滅している」
「なんだって!?」
1人の男が慌てて携帯電話を取り出した。
「……嘘に決まってる」
しばらくの沈黙──携帯からの返答を待っていた男は、青い目を曇らせてだらりと携帯を降ろす。
「……連絡がつかない」
「!? 馬鹿な!」
そんな男たちを見やり、左を指し示した。
「西に2kmほど行けば道路に出る。そこから南に10kmの地点にガソリンスタンドがある」
言いながら赤い十字が記された小さな箱を投げて車に戻る。
「……」
しれっと運転席に乗り込む彼を呆然と見つめた。
「ホントに壊滅させたんですか?」
しばらくして訊ねると、彼女を一瞥し口を開く。
「お前が来る以前から監視されていたのだよ。リリパットと情報屋に頼んで組織を洗ってもらい、仲間に要請して壊滅させた」
「はぁ~……凄い」
「いつもこうだといいのだがね」
苦笑いを浮かべる。
「不老不死って大変なんですね……」
「楽ではないな」
「情報屋って……?」
また新たに出てきた言葉に首をかしげた。
「世界のあらゆる情報をやりとりしている組織の事を言う。リリパットは特に馴染みになるだろう。今度いくつか紹介しよう」
「へえ……」
「他にも紹介屋と仲介屋がいてね」
それらの説明を受けながら、車はバリングラに向かう。