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*ありふれた日常

「置いてっちゃうよー!」

 今日はハイスクールの合格祝いに、父さんとちょっと高いレストランで食事をするんだ。

 お母さんを13歳の時に亡くしてから、あたしは父さんと2人で暮らしている。金の髪は母さん、緑の目は父さん譲り。

 この国の人たちは人種がバラバラだからあたしの容姿はさして珍しくない。皇族の人は黒髪が多いらしいけど。

 大きな背中の父さんは、似合わないスーツを着て苦笑いを浮かべてどっしりと歩いてくる。

 189㎝の身長に威圧感を持つ人もいるけど、本当はすっごく優しいんだから。

 フォーマルな恰好したのには訳がある。だって、フランス料理店なんだもの。あたしはお気に入りの淡い緑のワンピースと、上品なスパンコールで飾られたハンドバッグを持って父さんが歩いてくるのを待った。

「遅いよ~」

 背中までの緩やかなカールを描く髪が父の歩みを急かすように風に揺れる。


 そして店に到着し、慣れないフランス料理に父はギクシャク気味に料理を口に運ぶ。

「フフッ」

 あたしはそれが可笑しくて、必死で笑いをこらえた。

 あたしも緊張してあんまり味は覚えてないけど……


 それから、夜の街をあたしと父さんはぶらぶらと歩いた。

 マニアの観光客が来る程度の小国だけど、あたしはこの国が好き。

「父さん!」

 ソフィアは父の腕に自分の腕を絡めて、ニッコリと見上げる。男はそんなソフィアに柔らかな笑みを浮かべ、その頭を優しくなでた。

「えへへ……」

 大きい父さんの手。ごつごつしてるけど、あたしはこの手が好き。


 それから数日後──

「!」

 朝起きて、目をこすりながらキッチンに向かうと父が誰かと携帯電話で話していた。

 その瞳は仕事の時の目……

「! おはよう」

 電話を切って、心配そうに見つめるソフィアに気が付く。

「おはよう……お仕事?」

「ああ。今回はそんなに大きな仕事じゃないよ」

 言いながらソフィアの頭をなでる。

「うん……」

 この時の手は嫌いだった。父さんの仕事の時の手……父さんはフリーの傭兵だから。


 次の日──

「それじゃあ行ってくるよ。ちゃんと留守番してるんだぞ」

「うん」

 父さんは明るく仕事に出かけた。無事に帰ってくる事をあたしは必死に祈った。

 母さんは父さんの仕事に誇りを持っていた。兵士でなければ人を救えない場所があるから。

 解ってる。けど……やっぱり怖い。あたしは、父さんがいなくなったら1人になってしまう。

「……独りは嫌だよ」

 ソフィアは玄関のドアにぽつりとつぶやいた。

 ハイスクールで新しい友達が出来て、父さんの帰りを待つ日々。今回のお仕事はトータル2週間くらいだって言っていたけど、早く帰って来て欲しい。

 母さんが死んでから、父さんがいないあいだあたしは1人で生活しなきゃならないから料理は自然と上手くなった。

 サバイバル料理なら父さんは得意なんだけど、そんなのばっかり食べてられない。


「……はぁ」

 もうすぐ2週間経つ、ソフィアは溜息混じりに夕飯の準備を始めた。

「!」

 玄関の方から何か音がして少女は警戒しながら玄関に向かう。

「! 父さん!」

 開かれたドアに見えた影に飛びついた。

「ははは、ただいま」


 そんな心配を繰り返しつつ、少女は18歳となりハイスクール卒業を迎えた。

 これからは仕事をして、父さんにはなるべく仕事をやらないでもらうようにしなきゃ! 父さんが仕事をするのは私のためだけじゃない事は解っているけど、やっぱり怖い。

 そんな事を考えている間でも、父さんの携帯には要請がかかってくる。

「……」

 仕事に出かける父に心配そうな瞳を浮かべる。

「大丈夫。おまえに一つ、いい事を教えてやろう」

 目を細めて、彼女を安心させるように発した。

「何……?」

「俺たち傭兵の中にな、素晴らしい奴がいるんだ」

「! へえ……」

「ベリルって言うんだが、こいつの戦闘センスはずば抜けてる。しかも、イイ男だ」

「! 何それ」

 ソフィアは苦笑いで呆れた声を上げる。そんな彼女の頭を撫でて、男はいつものように出かけた。

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