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*即決です

「……」

 ソフィアは部屋でベッドに寝転がり思案した。

「どっちにしたってベリルさんとは離れるってコトよね!」

 ガバッ! と上半身を起き上げる。

「なんかイヤだなぁ……」

 3ヶ月の間に恋人として認めてもらう……ううん、絶対ムリ!

「義賊か普通の生活……かぁ」

 深い溜息を吐いて再びベッドに横たわる。

「あっ! 待ってよ……? リリパットならベリルさんとの接点は無くならない訳よね」

 ガバッ! とまた起き上がった。

「ベリルさんから要請とか受けちゃったりして」

 にしし……と小気味よく笑いをこぼす。少しでも可能性のある方に進みたかった。

「だって……好きなんだもん……」

 納得するまで諦めたくない。瞳を曇らせて宙につぶやいた。


 次の朝──

「……」

 ベリルは彼女の言葉にしばらく無言になる。

「決断が早いな」

「そういう性格なんで」

 ニパッと笑った。

「そういう事ならばここにいる間は私が教えても良いが……」

「えっ!? ベリルさんが?」

「私も過去に学んだからね」

 これは予想外なラッキー!

「はいっ! よろしくお願いしますっ」

 明るく応えて大きくおじぎをした。

「やったぁー!」

 部屋に戻り飛び上がって喜んだ。

 もう触れあえる機会は無いと思っていた処にラッキーな話が出て飛び上がらずにはいられない。

「でも……リリパットのトレーニングって?」

 枕を抱きしめて首をかしげた。


 昼過ぎ──

「……い、一緒じゃないのよ~!」

 トレーニング用の服に着替えて彼と向き合う。

「同じではないよ」

「どこがですかぁ~?」

 彼は構えを解き説明を始める。

「傭兵としてなら打撃技をメインに対処法なりを学ぶが、リリパットならばむしろ素早くどう対処していくかを学ばねばならん」

「それのどこが違うんですか?」

「根本的に仕事の内容が異なる」

 言いながら壁際に置かれているソファに向かい、ソフィアもそれに続く。

「傭兵はいかに戦い、生き残り遂行するかが重要だ。しかし義賊には相手を倒す目的はあまり無い」

「……?」

「リリパットはハンターと傭兵に重なる部分が多くあるが、主立った仕事は依頼主の大切なものを取り返す事だ」

 戦う事が仕事ではない……彼はそう言って目を細めた。

「! もしかして、あたしのためにそっちを薦めたんですか?」

 ベリルの表情に少しムッとなる。

「女性の兵士は多い。そんな理由で不向きかどうかの判断をする私ではない」

 スッパリと言い放たれた。

「ただ……」

「!」

 彼は一度、目を閉じて再び開かれた瞳に愁いを湛える。

「例えどんなに回避しようとしても避けられない危険は存在する」

 その危険の多い我々の世界にお前を留めておく事が果たして正しいのか……私には解らない。

「……」

 そう語った彼の瞳に涙を流し、その胸に飛込んだ。

「!」

「ありがとう……そう思ってくれるだけで嬉しい」

「……」

 引きはがす事もなく彼女の頭を優しくなでる。

 暖かな手の温もり──ソフィアは父の笑顔を思い出し静かに涙を流して温もりのなか意識を遠ざけた。

 それを確認し抱きかかえ彼女の部屋に向かい、ゆっくりドアを開いてベッドに横たえた。

「おやすみ」

 その額にキスをして部屋をあとにする。


 次の日から彼は傭兵やハンター、リリパットについて詳しく話して聞かせた。

 ハンターって聞くと、アメリカのハンターを思い浮かべたけど違っていた。俗に言うアメリカのハンターは主に保釈金を返さずに逃げた人を探して払わせるって人たちの事を言う。アメリカには、保釈金を貸してくれる会社があるから。

 それとはまったく別の職業で、依頼主の希望に応じて人間なり物を捕まえたり手に入れたりする人たちの事らしい。

 不死である彼は、事情を知らないハンターたちが相手の口車に乗せられて捕まえに来る事がある。それを彼女からは苦笑いしか出来なかった。

 中には、お金のためだけに捕まえに来る人もいるらしいけど……やっぱり、人それぞれなんだなって思う。いい人も悪い人も、どこにでもいる。

 リリパットと対立関係にあるのが盗賊で、『ナイトウォーカー』と呼ばれているらしい。

 表の世界と裏の世界……なんだかややこしいけど、その両方を考慮して仕事をする必要があるんだそうだ。

 トレーニングはリリパットたちがよく使う道具とか機械とかの操作方法や素早く動くための筋力アップなど、ナイフを使う事を重点的に教わる。

 ナイフは銃器とは違ってレンジ(射程範囲)は自分の腕の長さしかないけど、用途は多い。

 投げる事で遠いターゲットにも当てられるし、威力とかは弱いけど銃器類に比べたら使える場所や使い方が多種多様で自分に合った形を見つけるといいと教えられた。

「このマークはなんですか?」

「!」

 ナイフに刻印されているマークを指さした。

 切っ先を上に向けた剣の柄に1対の翼、その後ろには盾を簡略化しただろうと思われる図が描かれている。

「私のエンブレムだよ」

 苦笑いを浮かべて続ける。

「一人前になるとエンブレムを造る者も多い」

「へえ……」

 改めてエンブレムを見つめた。


「あの、ベリルさん」

「ん?」

 トレーニングを終えシャワーから上がったソフィアは言いにくそうに口を開いた。

「もしかして……食べなくてもいいんじゃないですか?」

 それに少し驚いたベリルだが、小さく笑って視線を外す。

「じゃあ、どうして食べてるんですか?」

「1人より2人だよ」

「!?」

 静かに発した彼の言葉に声を詰まらせた。

「ベリルさん……」

 あたしのために食べてくれてたの? 確かに、ベリルさんが食べなくてもいいって解ってても1人で食べると寂しかったと思う。

 どうして、そんなに優しいの? だから誤解しちゃうじゃない、もっと好きになっちゃうじゃない……

「ベリルさんは……恋人作らないんですか?」

「! ……私には恋愛感情は無い。元より欠落している」

「それでも、好きだって言ってくる人がいたら?」

「死なない相手を好きになるのは不幸だよ」

 柔らかだが、寂しげな瞳がソフィアを見つめる。

「それでも……っ!」

 詰まらせた声を振り絞って続けた。

 彼は目を細め、彼女から視線を外して宙を見つめる。

「同じ時間を生きられない事に耐えられる者はいない」

「!」

 共有出来ない時間……共に年を取る事も叶わず、自分だけが年を取っていく。

 ソフィアはその事に想像がついていかなかった。無理もない、彼女はまだ18歳だ。

「……」

 正面からぶつけられる感情に彼は沈黙した。

 そして──

「私には何も応えられない」

「!?」

 目を見開いた彼女を一瞥し、無言でキッチンに足を向けた。

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