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*事実は真実

<もうすぐ合流する!>

<そのまま追え>

 ベリルの冷静な声がヘッドッセットから響く。

「!」

 すると、にわかに周りが騒がしくなってきた。

 敵が近いってコト!? ソフィアは体を少し強ばらせ指示通りに走る。

「!?」

 目の前に突然、男が現れた。その顔は何度も覚えようと見つめた写真の男。

「止まりなさい!」

 とっさに叫ぶと男は立ち止まり、ブラウンの瞳を鋭く向けてきた。カイダム・レアロだ。

<刺激するな>

「……」

「なんだ貴様は……俺を捕まえに来た奴らの仲間か」

 ベリルの指示を聞きながらカイダムと対峙する。

「……っ大人しくしなさいよ。もう逃げられないんだから」

 ゆっくりした口調で発したが、男はさらに視線を鋭くさせた。

 威嚇など大の男に通用するハズがない。緊張と強ばりが体を強ばらせ、無意識に後ずさりしてしまう。

 それが引鉄ひきがねとなり、男は口の端をつり上げて容赦なく彼女に近づいてきた。

「!?」

 思わず逃げようと上半身を反転させた。

 そんな彼女の瞳に飛び込んできたのは投げつけられたナイフ──自分でも驚くほど、そのナイフはゆっくり見えた。

「刺さる!?」

 そう思って強く目を閉じた。

「っ!」

 肉に刃物が刺さる音がして、ビクリと体を強ばらせたが……痛みが無い。

「……?」

 恐る恐る目を開くと目の前にベリルが立っていた。

「!?」

「……っ」

 押さえた右腕を見るとナイフが深々と突き刺さっている。

「きゃあ!? ベリル!」

 彼は後ろのソフィアを一瞥すると、ナイフを引き抜き痛みに小さく唸った。そしてカイダムに無表情な目を向けると男は引き気味に声を上げる。

「ヒッ……『死なない死人』か」

 ベリルの瞳に男は膝をガクガクと震わせて、もはや逃げる事は叶いそうもない。

 それからすぐに仲間が集まり、フェテルがカイダムの両手を後ろ手に手錠をかけた。数分後に駆けつけた警察に引き渡す。

「撤収だ」

 ベリルの言葉に、みんなは集まっていた建物に足を向けた。

「痛くない?」

「心配ない」

 慌てて腕を持ち上げる彼女に小さく笑って応えた。


 建物に集合し、ベリルは今回の作戦遂行に労をねぎらう言葉をかけ解散となる。

「……」

 去っていく仲間たちのなか、彼女はまだ呆然としていた。ダグラスの言葉を思い出しただけじゃない。彼の腕に実感したからだ。

 彼が不死だという事実に──深々と突き刺さった傷の深さと、流れた血は少なくなかった。

 その傷が、たった数分の間に傷口すらも見あたらなくなっていた。視界が定まらないなか、彼のピックアップトラックに向かう。

「ソフィア」

「!」

 声に振り返るとダグラスが立っていた。彼はここで別れて別の要請に向かうらしい。

「いきなりキイツこと言ってごめんね」

「あ……ううん」

「君が言ったこと、少し合ってるよ」

 柔らかな笑顔を浮かべて見下ろした。

「え?」

 青年は家の主人と話しているベリルに目を移して続ける。

「俺にとってはベリルは師匠であり父親なんだ。父親を取られる息子の気持ちって、こうなのかもしれないね」

 肩をすくめたダグラスにクスッと笑う。

「……というのはタテマエ」

「え……」

 青年は少し意地悪い顔をして、さらに続けた。

「ベリルと付き合える女性なんて滅多にいないと思うよ」

「どういう意味?」

「言ったろ、恋愛感情が無いって。ベリルは誰にでも優しい。逆にいえば特別にはしてくれないってこと」

「!」

 もし恋人だと認めてくれたとしても……恋人同士がやるような付き合いは出来ない。

「それに耐えられる人なんて、そうそういないと思うよ」

「……そんなの。解らないわ」

 少しふてくされるように視線を外してつぶやいた。

 青年はそれにニコリと天使の微笑みを浮かべる。ドキッとした彼女に遠ざかりながらささやくように発した。

『憧れと恋心は似てるケド違うよ』と……


「ソフィア」

「! はい」

 ダーウィンに戻ってきたベリルは、ソフィアをリビングに呼んでソファに促した。

「……」

 もしかして、弟子にするかの判断結果かしら……とドキドキして彼のの顔を見つめる。

「お前は傭兵には向いていない」

「!?」

 ズバリと言われ自分の反応に戸惑う。ハッキリ言われるとは思っていなかったため、どう反応していいのか解らなくなった。

「ただし」

「!」

「リリパットとしての素質はある」

「! リリパットの……?」

 義賊としての素質があたしにある? 予想していなかった言葉に彼を見つめた。

「ルーシーを覚えているか」

「前にいた人ね」

 それに無言で頷く。カイダムを捕まえる時に紹介されたリリパットの女の人だ。

 義賊『イーグルキャット』のリーダーだと聞いた。

「彼女が適任だと考えている」

「! あたしの弟子入り?」

 彼は再び無言で頷いた。

「で、でも突然言われても……」

「3ヶ月ほど待って欲しいそうだ」

「!」

「難易度の高い仕事を抱えているそうでね」

「……っ」

 不安な瞳を彼に向け、震える手を握りしめた。

「決断しなければならない。普通の生活に戻るのか彼女の下に向かうのか」

「!?」

「3ヶ月の間ここで考えると良い」

 立ち上がった彼に驚きの表情を浮かべる。

「……追い出される訳じゃないの?」

 彼女の言葉に肩を落として溜息を吐く。

「私がか? そんな酷い人間に見られていたとは心外だな」

「! そ、そういう訳じゃ……っ」

「迎えがくる間、お前の自由にするといい」

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