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*その想い

 空路でいざコロンビアへ──コロンビア共和国、南アメリカ北西部に位置する共和制国家である。

 北西にパナマと国境を接しており、北はカリブ海、西は太平洋に面している。首都はボゴタ。公用語はスペイン語。

 国土の全てが北回帰線と南回帰線の狭間にあり基本的には熱帯性の気候だが、気候はアンデス山脈の高度によって変わる。

「……」

 ソフィアはボゴタに到着し、緊張の色が隠せなかった。

 誘拐と殺人の発生率で悪名高い国である。改善されたとはいえ決して油断はできない。

 何故なら、農村部や地方の左翼ゲリラ、極右民兵、政府軍の戦闘、及び麻薬組織の暗躍などの事情があるためだ。


 ベリルのピックアップトラックに乗り込みブカラマンガを目指す。

 首都ボゴタの北東に位置するコロンビア国内第5の都市ブカラマンガ。サンタンデル県内にある。

 そんな事情が無ければ、とても良い街並みなのに……ソフィアは小さく溜息を漏らす。

「ベリル!」

 街の一角、あまり人通りの多くない通りに面した一つの建物に入ると沢山の人が入ってきたベリルに挨拶を交わす。

 時は昼過ぎ、太陽が容赦なく街を照らしていた。

「何人だ」

「13人。あと5人ほど来るハズだ」

 訊かれた男が応える。無精髭を生やした、ミリタリー服に身を包んだ筋肉隆々の40代ほどの男性。

「……」

 そうよね、この人が傭兵なら解る気がする……と、彼女はその男を見上げて心の中で納得した。

「! このお嬢ちゃんは?」

 その男、フェテルはソフィアを見て眉を上げた。

「ベリルの弟子希望者」とダグラス。

 すると、他の人たちも物珍しげに彼女に近寄る。

「! え? え?」

 一斉に見つめられドキマギした。

「作戦会議を始めるぞ」

 薄笑いで発したベリルに一同は顔を向け一斉に彼女から離れた。

「……なんなのよ」

 この建物は、この街の有識者の家らしい。4階建ての3階部分を使わせて貰っている。広めの部屋に大きな丸いテーブルが真ん中に置かれていて、その上にこの街の地図を広げて皆がそれを囲んで話し合っている。

 地図には、色々なマークとか線とか文字が書き記されていた。

「奴は逃げ足が速い。単独での行動は避けるように、行きすぎた追跡もだ」

  ベリルが地図に手を示し動かしながら説明していく。

「リリパットの意見を聞き、的確な判断を頼む」

 すると1人の女性が手を挙げた。

「これは単なる疑問なんだけど、どうして私たちリリパットだけに要請しなかったの?」

 艶やかな黒髪を緩やかにカールさせ、スタイル抜群の漆黒の瞳の女性が問いかけると彼は静かな瞳で応える。

「当初はその計画だった」

「! じゃあ何故?」

「市街地戦の予想も立てている」

 その言葉に一同はどよめき立った。

「仲間も潜伏してる可能性があるってことか?」

 フェテルは眉をひそめる。

「市長にはそう言ったのだがね。聞き入れてはくれなかったよ」

「そうね……確かに私たちも戦闘が可能とはいえ、市街地戦までは慣れている訳じゃないわ」

 小さく唸って地図を見つめた。

「視線が通る範囲での距離を置く事は許可するが、それ以上が互いに離れる事は良しとはしない」

 念を押すように指示した。

「決行はいつ?」

「今から約2時間後」

「夕暮れを狙うのか」

 フェテルの言葉に頷き、軽く手を挙げる。すると、ダグラスがヘッドセットをテーブルに乗せた。

 仲間たちはそれを一つずつ手に取る。

「!」

 ソフィアの前にベリルからヘッドセットが差し出される。

「使い方は後で説明する」

「はい」

 一通りの作戦を示し、決行10分前まで休憩となった。

 ベリルは彼女にヘッドセットの使い方を説明したあと、フェテルと2人で話し合っていた。

「……」

 それをじっと遠目で見つめていたその時──

「ベリルのことが好きなの?」

「!」

 ダグラスが声をかけてきた。

「……悪い?」

 なんとなく彼の険のある問いかけにこちらも険で返す。

「悪いと訊かれたら悪いね」

「! なんであなたにそんなコト……っ」

 キッと睨み付けるように目を向けたあと、「は、は~ん」と鼻を鳴らした。

「まさか、彼のコト取られるとか思ってるの? 子どもね」

「違うよ」

 しれっと応えた青年にカクッと肩を落とす。

「君が傷つくのも理由の一つだけど、ベリルが苦しむのも見たくないんだ」

「!」

 今までの表情とはガラリと変わった雰囲気に声を詰まらせた。

「……あたしが傷つく?」

「ベリルにはね、恋愛感情は無いんだよ」

「!?」

 彼の口からつむがれた言葉に愕然とした。

「恋愛感情が無い?」

「そう、根本的に欠落してる」

「そんなことっ……」

「だから」

 彼女の言葉を遮って付け加える。

「だから、全ての人間を愛せるんだと思う。俺もベリルから愛情を受けた1人だからそれがよく解るんだ」

「!」

 真剣な眼差しを向けて言い放つ。

「君から受ける感情をベリルは苦しく感じてる。自分にはそれを受け入れる感情が無いから」

 応えられない自分にベリルは苦しむ。だから……これ以上、彼を苦しめないでほしい。

「……」

 ダグラスの瞳に何も言えなくなった。


 決行10分前、ベリルの周りに全員が集まり最後の指示を受ける。

「組む相手は確認したな。報告は逐一、行うように。所定の位置に散ってくれ」

 一同は一斉に建物から出て足早に遠ざかる。今回は街中という事もあり、服装はまちまちだ。ベリルもいつもの服を着ている。

「お前は私とだ」

「はい……」

 少し伏し目がちに返事を返した。

「どうした」

「! なんでもないです」

 ダグラスの言葉が脳裏から離れなくて、作戦中だというのに思考がまとまらなかった。

「ソフィア!」

「!? はっ、はいっ」

 耳元で声を張り上げられ、思わずピーン! と背筋を伸ばす。

「切り替えろ、でなければ作戦から外す」

「! す、すいませんっ」

 相手は待ってくれない。振り払うように首を大きく振ると、キリリと目をつり上げた。

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