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*鬼ごっこと大人の事情

「ソフィア」

「!」

 乾いた下着をバッグに詰めてリビングを通り抜けようとしたときソファに腰掛けているベリルに呼び止められる。

「何ですか?」

 下着、早く仕舞いたいんだけど……と、眉をひそめる彼女にA4サイズほどの紙を手渡した。

「なんですかこれ?」

「頭に叩き込んでおけ」

 言われて、その地図を見つめる。

「……コロンビア?」

「場所はブカラマンガ」

 言いながら1枚の写真を差し出した。

「?」

 そこに映っているのは、40代半ば褐色の肌の男性。

 硬い黒髪はカールしていて、彫りの深い顔立ちにブラウンの瞳は何か暗い部分を含んでいるようにも見える。

「奴を捕らえる」

「! 依頼ですか?」

 ベリルは無言で頷いた。


 昼食はミックスサンドウィッチ。

「……」

 凄く美味しいけど……彼女はベリルの食事にふと疑問を抱いた。

 何故か彼女が食べる量よりも少ない。男の人で鍛えているから代謝も高いはずなのだが実際、ベリルの体は筋肉質だ。裸を見た訳じゃないが先日の対戦で服越しでも充分に解った。

「……」

 と、あの時の彼をふと思い起こす。

 まるで猫科の猛獣のようなしなやかな動き──対戦なんかしてなければ、いつまでも見ていたかった。

 きっと、ライオンや豹が目の前にいたらあんな感覚なのかな……

「ああ、ここであたしは死ぬんだ」

 そんな絶望感が心を支配する。

 決して飼い慣らされる事の無い美しい獣──そんな獣に殺されるならいいかもしれない。そんな感情も自然と脳裏をかすめたのだった。


 気を取り直して自分の部屋で色々と考える。

「とりあえず、次の仕事には連れてってくれるみたいね」

 それは安心した。

「男の名前は……カイダム・レアロ。麻薬組織『ヘルドマンティス』のボス」

 この男がコロンビアのブカラマンガに潜伏している。

 正しくはボス“だった”男だ。組織はすでにコロンビア警察によって壊滅しているが、彼は捕まる事なく数人の仲間と共に逃げ回っているという。

 その捕獲を、ブカラマンガの市長が彼に依頼してきた。

 コロンビアは「地域主導の国」と言われるだけに、各地域ごとの対立が激しいとか……そう考えると、色んな「大人の事情」で彼に依頼が回ってきたんだろうな。とソフィアは考えた。

「! そういえば、コロンビアってエメラルドの産地よね」

 とにかく地形と街並みと道路と、この男の顔はしっかり覚えろって言われたけど……2日後の出発まで何を準備すればいいのかしら? と彼女は首をかしげた。


 夕刻──彼女は部屋から出てリビングに足を向ける。

「!」

 するとベリルがテレビを付けてその音を聞きながらハンドガンの手入れをしていた。

 微かに鼻を刺激する匂い……クリームシチューかしら? 予想しながらキッチンに行き冷蔵庫を開く。中にあったオレンジジュースの瓶を取り出しグラスに注いだ。

 1杯目は一気に飲み干し2杯目を注いでリビングに戻り、彼の手元を見つめながら斜めにある1人がけソファに腰掛けた。

「……」

 無言でその様子を眺める。

「覚えたか」

「! あ、はい。少しだけ」

 応えた彼女に目を向けず、手入れを終えたハンドガンを仕舞って今度はナイフを取り出した。

「! それ、変わったナイフですね」

「スローイングナイフだよ」

 投げ専用のナイフだ。格闘で使うには不向きなナイフだが、彼はこのナイフを多く装備している。

 すぐに使用できて、多くを装備出来るためだ。

「あの……」

「なんだ」

 ぶっきらぼうだが柔らかな物腰で聞き返す彼に訊ねた。

「何か特別な訓練とか、しなくていいんですか?」

 あれから、さしたるトレーニングも無いので怪訝に感じていた。

「今はまだ様子見の期間だ。その後にどうするかを決める」

「ああ……なるほど」

「遂行後に結果を報告する」

 言いながら立ち上がり、ダイニングキッチンに足を向けた。

 夕飯の準備をするのだろうと思ってテレビのリモコンを持ちチャンネルを変えていく。

「ハッ!?」

 しばらくテレビを見ていたが、ハッと気がついて慌ててキッチンに駆けた。

 あたし何やってんのよ! 夕飯の準備、手伝わなきゃじゃない!

「……」

 もう準備万端じゃないの……相変わらず無駄のない動きをしてくれますねベリルさん。


 匂いの予想通り、夕飯はクリームシチューだった。絶妙な味付けにニンマリと笑みをこぼす。夕飯の後に差し出されたのはジンジャークッキーだった。

「?」

 クリスマスでもないのに……? 首をかしげていると彼が小さく笑ってソファに腰を落として応える。

「クリスマスに作ってくれと頼まれてね。確認のために試作した」

「! あ、なるほど」

 ソフィアは納得して、そのクッキーを1つ手に取る。

 程よい甘さと、ジンジャーの香りが鼻に通って一緒に出されたミルクティーにとても合っていた。

 頼んできた傭兵仲間は、クリスマスに家族でパーティをするのだそうでジンジャークッキーを大量に注文してきた。

 注文って言い方は変な気がするけど、聞いた量を考えればそう言いたくなった。

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