*テスト
「!? キャッ!」
その動きに気を取られ、気がつけば目の前に迫っていた。
その鋭い眼差しと、引き裂くような手の形にソフィアは思わず声を上げて守るように両手をクロスした。
「! ……?」
なんの攻撃もしてこない……? 恐る恐る両手を下げると、目の前で自分を見つめていた。
「あの……」
「なるほど」
そう言って、今度は試射室に促す。
「構えてみろ」
「え……」
ソフィアは、置かれているハンドガンを見渡し、その1つを手にした。そして10mほど向こうにあるマトに向かってハンドガンを構える。
父から構えや撃ち方は習っているとはいえ、ズシリとくるその感覚に一瞬だが戸惑いを見せた。
それを見た彼は置かれているハンドガンをおもむろに手にし、構えて引鉄を引く。
「わっ!?」
発せられたその音に耳を塞いだ。
「では次」
しれっと発して試射室から別の部屋に案内した。
「……」
そんな彼の姿に尻込みする。自分の力を計っている事が解ったからだ。
次に案内されたのは武器庫──色んな武器が所狭しと並べられている。
「ナイフの使い方は」
それを唖然と見つめる彼女にコンバットナイフを差し出した。
「少しだけ……」
おずおずと手に取りナイフを見つめている彼女を横目で見やり、別のナイフを手にした。上品で流れるような動きが目の前で展開される。
数秒の動きだったが、ナイフの扱いは一流だという事がシロウトながらに解った。
「……」
彼女はぎこちないながらもナイフを動かす。
ナイフを戻し、確認したように視線を外すと部屋をあとにした。
「……」
見定められているような感覚になんとなくムッとなる。
教える相手がどれくらいの力を持っているのか解らないと教えようがないものね。これは当然のことなんだ……と言い聞かせた。
彼には、相手が男だろうと女だろうと関係ないのだと実感して、本当に『弟子』として自分を見ている事に少しの胸の痛みを覚える。
「私の事はどれくらい聞いている」
「え?」
思い出そうとするように視線を少し上に向けた。
「素晴らしい傭兵だって。戦闘センスがずば抜けてて、イイ男だって」
「!」
それを聞き少し笑って眉をひそめた。
「それで終わりか」
「うん」
「ふむ……」
思案するように目を伏せた。
その日はそれで終おり、彼女は部屋を1つあてがわれた。2階が寝室で、その一番奥にある部屋が彼女の部屋になる。
階段の近くの部屋が彼の寝室。他に2つ部屋があって、仕事(傭兵)関係の服を置いている部屋と客間がある。
ベリルさんの寝室には2つベッドがあった。隣で寝たいな……なんていう願望が心に見え隠れする。
出来れば同じベッドに……とかいう高望みはいたしませんとも。
「……」
などと虚しい妄想を浮かべて、スーパーマーケットで買ったパジャマに袖を通しベッドに潜り込む。
明日は一体、何をするんだろう? そんな事を考えながら眠りに就いた。
見た夢は最高にへんてこりんな夢だった……魔法のじゅうたんならぬ魔法のベッドに、あたしとベリルさんが乗って空を飛んでいる。
それをペガサスにまたがった父さんが追いかけていた。
「おはよーございま~す……」
変な夢のおかげで、変な目覚め方をしたあたしは間抜けな声で発する。
「おはよう」
相変わらず上品な物腰のベリルさんが爽やかに挨拶を返した。携帯電話で誰かと電話しているようだ。
いや、爽やかという言葉はなんだか妙に彼には似合わないような気がしないでもないけど……爽やかって言葉は、快活な人に似合う言葉だと思うのよね。ベリルさんは「快活な青年」っていう感じじゃないし。
うん、どっちかというと王子って感じ。麗しい人だから。
「先に着替えておいで」
電話を終えて、携帯を仕舞いながら発する。
「……? ハッ!?」
パジャマのままだった! 言われて気がついた。
家にいた時と同じ感覚でいてしまった……慌てて部屋に戻り、急いで着替えを済ませ戻ってくる。
「!」
戻ってくると、ダイニングテーブルに朝食が並べられていた。
ベーコンエッグにバターの塗られたトーストとコンソメスープ。小さなボウルにはサラダが見栄え良く盛りつけられている。
「……」
お母さんみたい……向かいで上品に食べている彼を、スープの入ったマグカップ越しに見つめた。
「洗濯物があるなら後で出してもらいたい」
「はい。えっ!? ダメダメ! だめですっ」
慌てて拒否すると彼は小さく首をかしげた。
「だっ……だって……あたし、あのっ女なんですよ」
「? それがどうした」
「……」
あたしのコト女と見てないってこと!? ムッとしたが考えてみればそうじゃなければある意味、危険な状況だと気がついた。
同じ屋根の下で暮らすコトになる時点で考えるべき事柄じゃないの……男と女なんだから! そんな思考をグルグルさせている彼女をよそに、彼は関心のないようにしれっと食事を進めていた。
「……」
なんか右往左往してるあたしがバカみたいじゃない。
「下着は自分で洗います……」
「そうか」
食事を終えて、彼女は下着をドラム式全自動洗濯機に放り込みその振動を見つめながらうなだれる。洗濯機があるのはキッチン裏手の小さなスペースだ。
「どういうのかなぁ~」
両肘をつき、その手に顔を乗せてつぶやく。
「弟子にしてくださいって言ったから、それ以外では見てないってコトなのかなぁ……」
だって、そう言うしか無いじゃない。いきなり交際を求められるほど、あたしの度胸は据わってない。
「……」
ボ~っと宙を見つめる。
「どうした」
洗濯機の横でぽかんとしている彼女を見下ろした。
「ハッ!? なんでもない!」
「ソフィア」
「はい」
「体力に自信はあるか」
「陸上部にいました」
「そうか」
それを確認してリビングに戻っていく。
「?」
なんだったのかな……