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折れ枝のジーナ -- 奴隷少女の生き残り戦記 --  作者: 青風ぱふぃん


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9/10

酒場の小さな看板娘

「ただいまー……うわあ!?」

 数日後。ひょこりと酒場に帰ってきたジーナは、扉をくぐるなり着飾った女性たちに飛び付かれた。


「本当にジーナだぁー!」

「おかえりぃー!!」

「元気でよかったぁ、よかったねぇー」

「こっち座って! 話を聞かせてよ!」


「お、おねえちゃんたち……?」

「そうだよ! 覚えてる?」

「……相変わらずキレイだね」

「やだぁこの子ったら、お世辞を覚えて帰ってきたわ!」

「まって!? いやみかもしれないわよ?」

「『老けたね』の言い換え? ヤダー!」

 キャキャキャキャ、と皆で笑う。


「えっ、そんな意味では……」

「わかってるわよう、うちの小さな看板娘が、そんな意地悪になったなんて思ってないわ!」

「……うん……、小さな看板娘?」


「そうだよ! リラが踊る舞台の下で、一緒になってクルクル踊ってさ、お客さんも大喝采だったよ、覚えてない?」

「…………覚えてない」


 その言葉を受けて、女性のひとりがパンと手を打ち合わせた。

「そんなら、じゃあ、一緒に踊ろ! 踊ったら思い出すかもよ!」

 キャーッ、と皆から歓声が上がる。


「踊ろう、踊ろう」

「舞台は狭いわ、テーブルどけちゃえ、フロアで踊ろう」

「おいでジーナ、ジーナが真ん中よ!」

「え、え、え」

 ジーナは戸惑いながらシングをちらりと見上げる。


「行ってこい、俺はここにいるから」

 シングは近くの椅子にどかりと座り、テーブルに肘をつく。

「……あ、うん」

 ジーナはシングから離れ、みんなの輪の中に飲み込まれる。


「あらお兄さんいい男、あとでゆっくり相手してあげるから、おとなしく待っててね」

 女性のひとりがシングにのしかかるようにして、妖艶に微笑んで見せる。

「はっ!? いやっ、お構いなく!」

 シングは思わず上半身を引き、椅子ごと後ろに倒れそうになる。建付けの悪い椅子がガタン、と大きな音を立てた。


「モニカ! 誰彼構わず粉かけてんじゃないよ! こっちにおいで!」

「はぁ~い」

 モニカと呼ばれた女性は、シングからあっさり離れてフロア中央に歩いて行く。


「メイリィもおいでよ、一緒に踊ろう」

「アタシはいいよ、ここで見てる」

 シングの隣のテーブルに、怠そうに座っている女性がパタパタと手を振って、煙草に火をつけた。


「メイリィまた二日酔い〜? 飲み方考えたほうがいいよー」

「うるさいね、余計なお世話だ」

「ジーナ覚えてる? メイリィ。あんたの母ちゃんと人気を競ってた、当時2番手の踊り子だよ」

「えーと……」

 ジーナはメイリィを見る。


 ウェーブのかかった黒い長い髪。赤い唇。切れ長の鋭い目。


「……あ、イジワルなおねえちゃん……?」


 ゲホッ、とメイリィは煙草に咽せ、皆は弾けるように大笑いする。


「ほら、悪いことするとちゃんと嫌われるんだよ」

「良いことよりも嫌なことの方が記憶に残るもんだからね」

「覚えててもらってよかったじゃないか、メイリィ」

「うるさいねあんたたち! 踊るんじゃなかったのかい、さっさとしたらどうだい! もう店が開いちまうよ!」


 メイリィに怒鳴られ、ああそうだった、と皆はフロアに広がる。


 モニカがアカペラで歌い出し、皆も声を揃えて歌いながらステップを踏み始める。


「ジーナ、覚えてるじゃん」

「そうそう、上手い上手い!」

「なんか踊りが鋭くなってる! すごい!」

「あー惜しい! ここはこう、こうしてからこうすると上手くステップが繋がるよ!」


 ワイワイと楽しげに踊り続けるジーナを、シングは安心したように見守る。

 そこへ。


「カミラから聞いたよ、あんた、ジーナの保護者だって?」


 隣のテーブルから、不意にメイリィが話しかける。


「ん? ああ、まあ」

「親戚なのかい?」

「いや、通りすがりの、何というか、他人……?」

 解放したあとのことを考えて、奴隷と主人、とは言わないようにした結果、なんとも歯切れの悪い答えになる。


「はあ?」

 メイリィが変質者を見る目をする。


「他人がなんで……。あんたまさか、いやらしい目的でジーナを飼ってるんじゃないだろうね?」

「ちちちちち違う! 本当に! ひとりで放り出すわけにいかないだけで!」

「ふうん……?」

 メイリィは少し目つきを和らげるが、まだ不審げにシングをジロジロと見た。


「他人にしちゃ妙に親しげじゃないか、笑ってジーナを見つめたりしてさ」

「ああ、いや、あいつあんまり笑わないから、楽しそうにしてるのが珍しくて」

「ジーナが笑わない? あの明るくて物怖じしなくて、誰とでも友達になれてたジーナが?」

「ああ……」

 シングはその話を聞いて痛ましげな顔をする。

「……いや、まあ、あいつも色々あってな……」

「ふうん……?」


 一瞬訝しげな顔をしたメイリィだが、ふう、と煙草の煙を吐き出して、皆の方に向き直る。


「……まあ、色々あったのはわかるよ。皆触れないようにしてるけど、ジーナ、顔も手足も傷跡だらけだ」

「ああ……うん」

 ……可哀想にな、とシングはポツリと零す。


「一緒にいるのは同情?」

「まあ、そうだな。何となく成り行きで、かな」

「そう……」

「ここが居心地がいいなら、ジーナを置いていってもいいなと今思ってる」

「ふうん……そいつぁ鬱陶しいねえ」

「えっ?」


 そこでメイリィは不意に声を張り上げる。


「鬱陶しいって言ったんだよ! 今さらジーナが戻ってきたって、ここの踊り子No.1はこのメイリィ様だ!」


「えっ」


 皆の歌と踊りが止まる。


「な、何言ってんだいメイリィ」

「どうしたのメイリィ、落ち着いて」


「あんたたちもジーナを調子に乗らせるんじゃないよ! リラもここに戻ってなんか来ない!」


「なんてことを言うの!」

「あんた、リラが失踪して一番心配して後悔して……」

「黙りな!」


 メイリィはテーブルを強く叩き、立ち上がる。


 その時ちょうど、店の扉に下がったベルがカランと鳴る。


「こんちは、やってるかい? ……おう、どうした、なんかイベントか?」


 入ってきた2、3人の客は、いつもと様子の違う店内に驚いて足を止める。


「やってないよ! 出て行きな!」

 お客に向かってまでメイリィは怒鳴る。


「え? 今日は臨時休業かい? そんな話は聞かなかったが……」

「うるさいよ! いいからとっとと出ていけ!」

 メイリィはズカズカとドアまで歩み寄り、男たちを押し出そうとする。


「お……、おいおい、どうしたメイリィ」

「なにこれ、メイリィちゃんどうしちゃったの、カトレアちゃん」

「ごめんなさいね、なんかこの子今機嫌悪いみたいで……」

 客に指名されて、カトレアが慌てて割って入って答える。


「……おい、あの真ん中にいるの、ジーナじゃないか?」

「本当だ! 大きくなったな、リラによく似てる!」

「ん? ジーナ?」

「お前は知らんか、昔この酒場でNo.1の踊り子だったリラの……」

「No.1はアタシだ! ずっとアタシだ! リラなんか知らない!」

 客の言葉を遮ってメイリィが怒鳴る。


 その時、

「何の騒ぎだい?」

 厨房の扉から、店主のカミラが顔を覗かせる。


「おやまあお客さん、来てたのかい? ごめんよ裏口で野暮用を……」


 店の奥から出てきたカミラは、店内の様子を見て仰天する。


「あんたたち、何をやっているんだい!」


「キャーッ」

「片付けて片付けて!」

「早くテーブル直して!」


 バタバタと動き出した踊り子たちに向かって、客が言う。

「いいよいいよ、ジーナと踊ってたんだろ? 俺たちにも皆で踊って見せてよ」

「たまにはこういうのもいいよね」

「ジーナの帰還祝いだ、女将おかみ、高い酒を開けてくれ!」


 盛り上がってしまった客たちにそれ以上怒鳴ることもできず、メイリィは不貞腐れたようにテーブルに戻って再び煙草に火を付ける。


「……大丈夫か?」


「……ふん」

 メイリィはじろりとシングを睨む。


「とっとと出て行きな、目障りなんだよ。なんだい、今さらのこのこ現れて。みんなリラのことなんざ忘れてくれてたのにさ」

「ああ、すまん。いや……、探し物があって寄っただけなんだ。このあたりに、アイリスとレディという名の母娘は居なかったか?」


「なんだい、人探し?」


 メイリィはふー、とタバコの煙を吐き出し、ケラケラと笑う。


「妻子に逃げられたのかい? 確かにあんた、逃げられそうな顔してるね」

「どういう顔だよ……、違う、恩人の奥さんと娘さんを探してるんだ、……恩人の遺言を伝えたくて」

「遺言?」

「……の、ようなもの、かな」


 ふうん、とメイリィはまたひと息タバコを吸い、

「ま、何でもいいけどこの辺にそんな名の母娘がいたことはないよ。さっさと別の町に行きな」

 アタシは顔が利くんだ、アタシが知らなきゃ誰も知らないよ、と、煙とともに吐き出した。


「そうか……、いや、せっかくジーナが珍しく楽しそうにしてるから、数日お世話になろうかと思っているんだが……」


「はっ!」

 シングの言葉に、メイリィは嘲るように一声笑う。


 そして席を立ち、店内のバカ騒ぎ、ほくほくと酒を運ぶ女店主、はしゃいでいる客、と順に見回して、シングのいるテーブルにドカッと行儀悪く座る。

 テーブルがガタンと大きな音を立て、皆がふとこちらを見る。


「そんならさぁ? アタシの部屋に泊まりなよ。サービスするよ。もちろんジーナも一緒で構わない」


 メイリィはシングにしなだれかかる。


「おいやめ……」

 と言いかかったシングの口に、メイリィは自分の口紅のついたタバコを咥えさせ、頬を寄せる。そして、聞こえるか聞こえないかの声で囁く。


「…………に気を付けな」


「……えっ、そ……」

 慌てて自分の口からタバコを摘み取り、問い返そうとしたシングの言葉は、キャーッ、と言う悲鳴に掻き消された。


「メイリィずるーい!! モニカが先にツバつけたのにー!」


「うるさいよ、皆アタシの客に手を出すんじゃないよ、いいね?」


「バカ言ってんじゃないよ!」

 店主のカミラが叱責する。


「このふたりは大事なあたしのお客さんだ、一番いい客間に泊めるからね、覚えときな!」


 そしてシングを睨む。


「ジーナのいる部屋に女を呼ぶんじゃないよ! 用があるならあんたの方から女の部屋に行きな!」

「ええっ」

 狼狽えたシングはジーナにも睨まれて慌てて手を振る。

「ないない、用なんてない!」


「つれないねえ」

 メイリィがふん、と鼻で笑った。


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