育った町へ
カラン。
酒場の入口のドアベルが鳴った。
「はいよー」
軽い返事がして、奥からエプロン姿の小太りのおかみさんが出てくる。
「誰だい、気が早いねえ、まだ開店前だよ……」
と言いさして、訪ねてきた客を見て目を見開いた。
「カミラおばちゃん、久しぶり。覚えてる? ジーナだよ」
ちょっと照れたように、ジーナが挨拶をする。
「母ちゃん、いる?」
* * *
シングとジーナは、シングの探し人の手がかりを探して、裏町を回ろうと言うことになった。
「……あのさ、私が暮らしてたあたりに行ってみない?」
ジーナがそっと言い出す。
「いや! あのさ! 土地勘があるトコからの方がいいかなって! あそこならまだ知り合いがいるかも知れないし、話も聞きやすいかなって!」
「ふむ……」
シングが少し考える。
「そうだな、母ちゃんに会いたいもんな」
「ちっ! 違うよ! そりゃ文句のひとつも言ってやりたいけどさ!」
「うんうん、元気だといいな」
「違うってば!!」
そんなこんなで、今ジーナは母親が住み込みで働いていた酒場を訪ねてきたのだ。
* * *
視点が高くなったせいか、酒場のホールは思ったより広かった。ジーナの記憶では机や椅子がゴチャゴチャして迷路みたいという印象だったが、こうして見渡してみるとけっこうゆとりのある作りだ。
中央には簡易な舞台が設えてあり、そこで母が踊っていた風景が懐かしく思い出された。
「…………まあまあ、あんた、本当にジーナかい? こんなに大きくなって!」
カミラはドタドタと駆け寄ってきて、ジーナをギュッと抱き締める。
「リラと二人して急に居なくなっちまって、みんなで心配してたんだよ! 何年もどこに行ってたんだい! ひと言あっても良かったじゃないか!」
「……えっ?」
「で? リラ……母ちゃんは? 先に来てるはずだったのかい? どこで油売ってんのかね、ちょっと様子見に……」
「えっ、待って待っておばちゃん、母ちゃんここで働いてるんじゃないの?」
「えっ? 一緒に出てったんじゃないのかい?」
「え……」
ジーナは青ざめ、シングの腕をギュッと握る。ジーナは相変わらずシングの左腕にくっついて離れない。
「……どういうことだ」
シングも難しい顔をする。
「……ところでこちらさん、どなたさん? ジーナのいい人かい?」
「ちちちっ、違います! 保護者のようなもんと言うか!」
シングが慌てて否定する。
「保護者? ジーナの父ちゃんの親戚かい? 確かに雰囲気は似てるねぇ、まあジーナの父ちゃんはもっといい男だったがね」
ケラケラとカミラは笑い、シングは悪うございましたね、と少しむくれた。
* * *
ジーナとシングは奥に通されて、カミラはお茶とお菓子を山盛り出してきた。
「……元々あんたたちは急にうちに転がり込んできたからね、なんか事情があるんだろうと思ってたさ」
カミラはため息をつく。
「でもねえ、やっぱり心配はするんだよ。荷物も残したまま不意に二人して居なくなっちまって、何か事件に巻き込まれたんじゃないかって従業員総出で探したけど、何の手がかりもなくて……」
沈んだ顔をしたカミラは、パッと顔を上げる。
「ああ、ごめんごめん、愚痴っぽくなっちまったね。何にしろ無事でなによりだ! リラとはぐれちまったのかい? ここに来るかもしれないなら、何日でもゆっくりしていきな! あたしゃ開店準備があるからね、ちょっと失礼するよ」
カミラはせかせかと厨房へ戻って行った。
それを笑顔で見送った後、シングとジーナは深刻な顔で目を見合わせた。
「え、どういうことなの、母ちゃんは私を売って失踪したってこと?」
「そうかも知れないが……、いや……」
シングは顎に手を当てて、顔をしかめる。
「お前、もしかして売られたんじゃなくて攫われたんじゃ……」
「えっ?」
ジーナは思いもよらない話に目を丸くした。




