#第6話
部屋を出て空き部屋に入った。空き部屋は薄暗い以外はごく普通のオフィスルームだった。
「わざわざ警視庁の喉元にナイフを突きつけるような真似して何をしたいのかしら」 私は呟いた。「挑発にしては度が過ぎてますよね」
「まあそもそもテロなんかやる時点で、とは思うけれど」夏紀がペンをグリグリこめかみに押し当てた。
「祖国解放人民義勇軍、今回動いているこのテロ組織から何か出ている情報はないのですか?」美春が吐き捨てるように言った。「奴ら、目立ちたがりだから派手にやりたいんでしょ」
「別に情報はない。犯行声明も出ていないし。僕はそう思わないけどね。祖国解放人民義勇軍はそんなにバカじゃない」
「まあどちらにも一理はあるんでしょうけど」突然声がかかって振り返ると、背の高いハーフアップの女性が私の後ろに立っていた。「どうもこんにちは。警察庁警備局外事情報部外事課理事官、安藤春妃です」
私たちはすぐに直立不動の姿勢を取った。安藤春妃、このニセ「事態対処リエゾンチーム」の事実上のリーダーである。中身は御門璃梨佳、私の友人だが、きっちり偽装は効かせないといけない。「理事官、こんにちは」
「――さて、全員揃ったことだし本題に入るか。このリエゾンチームの目的は、警視庁と首相官邸、及び警察庁の連絡役、というのがいわば表向きの理由だ。官邸としては、この捜査の指揮を掌握しておきたいと思っている。法律上の所管は確かに警視庁にあるが」夏紀が口火を切った。
「東京国立スタジアムで発見されたのは、プラスチック爆弾だった。外事第一課は"不審物発見! すぐに爆発物処理班を呼べ。試合開始までに全ての場所をチェックするんだ。一つでも残ってたら終わりだぞ!"と騒ぎ立てていた。バックに誰がいるのかを考えようともせずにね。爆弾の場所はどこだ、そればかり。とはいえ、課長などはさすがに陽動作戦の可能性をちゃんと疑っていたんだから、ちゃんとしたお人ではあるんだろうね」
そこまで夏紀は一気に言うと、息をついた。
璃梨佳が笑った。「さすが外事第一課、脳筋思考。まさか私たちも同じ考えで動くわけではないよね?」
夏紀も不敵に笑った。「まさか。何なら今回の事件これしきで終わると思っていないしな」
「そもそもプラスチック爆弾は起爆に高度な技術力を要する。そんじょそこらのテロ組織が簡単に作れるようなものではない。東の政府が一枚噛んでいることは確かね」と璃梨佳。
「だとするとこの程度であちらは引き下がらないってことでしょうか?」美春が尋ねた。「これ以上のものを仕掛けてくると?」
「だろうね」璃梨佳が頷く。
「それにしても奴らの目的は何なんだ?」
「明確に政府首脳や官公庁などを直接ターゲットにするのではなく、民生の施設のみを攻撃してきてる。とはいえ、公園に関しては警視庁の目と鼻の先、おそらく"我々はここまで手を回せるのだ"ということを示したいのではないかと思う」どうやら璃梨佳にはもう先が見えてきたようだ。
「だとすれば、かなり派手にやってくるのか。大きめの爆発とか...」
「私の考えでは」璃梨佳が言葉を選びながら話した。「もっと大きな爆弾を持ってきてるはず。官邸の側で持ってる情報も見せてほしい」
「ああ、それから高城さんたちからは捜査資料を配ってくれるかな」そういって夏紀が私に目配せしてきた。先程の尋問の報告を見たいということだ。
「タブレットで全員に送りますね」
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「なるほど」夏紀が呟いた。「全体的によくまとまっているとは思うよ<コイツが言っていることは嘘か本当かはなかなか分からないね>」夏紀は口の形と実際に話す言葉を変えて話してきた。ここからは警視庁も知り得ない情報。おそらく監視・盗聴されているであろうこの状況でうかうかと話すわけには行かない。捜査資料も暗号にしておいた。
「ありがとうございます。急いで仕上げたもので、あまり自信がなかったのですが、お褒めにあずかり光栄です<全部が全部嘘かはわからないけどね。とりあえずアジトだけでも、探しに行く価値はあるとはいえ、ワナかもしれないしね>」
「とりあえずここからは2組に分かれて動こう。組み替えて僕と大川さんで組むから、理事官と高城さんで動いてもらおう」
そう言って、私たちは警視庁を飛び出した。
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数十分の後、私たちは東京国立スタジアムの観客席にいた。空は段々曇ってきていた。変わらず、公務員の装い。
「技術系も出張ってきていますが、問題はもう1つの爆弾ですね」私は唇を固く結んだ。「ありえるのは燃料気化爆弾」
「爆弾の王様――より高度で難しいけれど、威力は圧倒的。全体的に置いてあるだろうから爆発すればこのスタジアムが丸ごと火の玉になることでしょうね」
「とりあえず爆弾を探すために最近のモノの出入りを探すか」
(第6話 完)
お読みいただきありがとうございました。
今回は短め!
キリが良いのでここで今回はおしまい!
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