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TOKYO TEENAGENTS  作者: 月野陽加利
東京国立スタジアム篇
10/10

#第10話 第二の目的

「それじゃあ、教えてもらおうか。今日、君たちの身に何が起こったか」

 月谷(つきたに)さんの言葉に、胃が体の中でズドンと落ち込んだような感覚がした。今日起きたこと......業火(ごうか)に包まれた東京国立スタジアム......


 夏紀(なつき)が話し始めた。夏紀はいつも通り落ち着き払っていた。

「僕たち、つまり僕と璃梨佳(りりか)は今日東風谷(こちたに)先生の命令を受けたあと、西新宿(しんじゅく)の東京警視庁に向かかいました」

「潜入はどうやって?」月谷さんが尋ねた。「並大抵(なみたいてい)のことでは潜入できない場所だろう?」

「東風谷先生からこういうときのために預かっていた首相官邸危機管理センター所属の偽IDをもらっていましたから、簡単でした」

「簡単...奇妙だ。東京警視庁はそんなにセキュリティ緩かったっけ?IDだけ?そんなバカな」秋山(あきやま)が肩をすくめた。「こちらの意図するところがわかっていて泳がされてるとかはないのか?」

「否定はしきれないけれど、東京警視庁にはこちらの協力者がいる。セキュリティに関わる部門にね」

「私たちはIDに加えて危機管理センターに確認の電話を入れられたわよ。一課の課長御自(おんみずか)らよ」私も口を挟んだ。

「課長はこちらが抱き込んでいる。心配することはないさ。公安の人間から少なくない数の人間が戦略情報庁に出向に来ているんでね。あの課長も課長になる前にはウチの作戦部にいた。今回は東風谷先生が連絡を入れていた。彼は信用できる人物だ」

「そもそも情報機関の幹部クラスは内閣府の国家情報コミュニティ―我が国のすべての情報機関による合議体だね―の会議に出ていてお互いに面識があるし、情報も融通し合っている。少なくとも偉いさんたちに縄張り意識は今はほとんどない。むしろ中堅や若手の方が自分たちのシマに関する意識が強いみたいだ」


「なるほど、若手の間では縄張り意識...何でその情報を私たちには教えてくれなかったのかしら?夏紀と璃梨佳で手柄をガッポリ独り占めしたいとでも思っていたの?アンタの大事な大事な璃梨佳に自分のカッコいいところを見せたかったの?なら最悪ね......おかげで東京は半分が吹っ飛んで屍累々(しかばねるいるい)、私は手負いよ」シャワーから戻ってきた美春(みはる)が部屋の入口に立っていた。

「なっ...何も僕は特別扱いしているわけでは......」

「作戦がうまくいかなかったことへの苛立ちを人にぶつけるべきじゃないと思うけど」


 冷蔵庫の中身を眺たる。ひとまず人参(にんじん)、ジャガイモ、牛肉、ネギ、レタス、トマトを取り出す。むろん、皆の話には耳を傾けながら。しかし話の雲行きが怪しくなってきたな、美春は昼間話していた件もあるし、ずいぶんフラストレーションが溜まっているようだ。さてどうしたものか。璃梨佳はずっと部屋の端で考え事をしてこちらには興味がなさそうだし、錠太郎は相変わらずどこにいるのやら。そもそも錠太郎(じょうたろう)のコミュニケーション能力を考えれば喧嘩の仲裁など夢のまた夢。月谷さんは聞き手に回って止めようとしない。結局いつも私に面倒事が回ってくる。


「責任を糾弾するのはそこまで。美春の話は後で聞いてあげるから。今は事実関係を整理する時間にしましょう。心が荒むのは分かるけど一旦我慢して」

「はい」美春が口を尖らせた。

「話を続けよう。さて、東京警視庁ではどんな情報が入手できた?」月谷さんが夏紀に目配せした。

「東京国立スタジアム及び新宿公園一円を吹き飛ばすような量の爆薬を仕掛けるのには当然その爆薬の入手ルートがあるはずだと考えました。東京国立スタジアムと新宿公園の捜査そのものは他の部署も動員していたけれど、僕たちのところは犯人のアジトを探し出すのを中心にやっていました」

「それで分かったことは?」

「今回使われた爆弾を入手するには軍需工場からの入手が必要、ということ。それだけ」

「もしかして、軍が自作自演的にやったということ...?」

「いくらなんでもそれは論理が飛躍しているかな。軍の一部に不審な動きがあったという情報はない。もっと下の方―つまり工場内部で横流しをしている人物がいるということだろう。近く調べに行く」


「璃梨佳はどう思った?」

「ん?何ぃ?」

「今日1日どうだったって話」

「夏紀の言った通りで合ってると思うよ。ただ一点補足すると、さすがに一箇所(いっかしょ)から集めているわけではないと思うよ。分散しているはず。内通者にも良心の呵責(かしゃく)というものがあって、内通者を管理する者たちは責任感というものを極力低減させようとするはずだからね」


「秋山くんと大村(おおむら)くんはどうだった?」


 ---


 結局は日が変わるまで続いた。


 途中、夕食を挟んだが、重苦しい雰囲気は変わらなかった。とりあえず今日は泊まっていくことになり、ONIWABANの女子組は部屋に()けた。


 ベッドの中で私が眠りにつきかけたころ、突然璃梨佳が大声を出した。

「考えがまとまった」

「わぁ、びっくりした。何よ」私は抗議した。

「こんな大規模な惨劇を引き起こすためには、やっぱり我が国の情報機関に莫大な数の内通者がいなければ成り立たない。今回は自爆テロでもなければ銃の乱射でもない。長期間にわたって準備ができて、なおかつこれだけの量の爆弾を入手し、事前に設置したわけ。さらに東京警視庁の捜査員がまともに機能しないほど情報を分断し、ウチが捜査のほぼ全般を担当しなければいけないほどにする。敵が相当に我々に浸透していなければ、これほど大規模で大胆なことはできないはずね」

「誰?そんなことができるのは?」ベッドに横たわっていた美春が体を起こした。

「ここまで手の込んだことをしてくるのだから一人や二人といったところではないでしょう。我が国の政府全体にわたって深く絡まっている。これは私たちにはどうしようもないもの」

「東風谷先生がその内通者の首魁(しゅかい)であるという可能性は?東風谷先生は戦略情報庁のナンバー2。すべての情報を統括できる立場」美春が指摘した。

「あり得ないわけではない。ただ、東風谷先生は裏切り者かもしれないし、裏切り者を追う者かもしれない」

「裏切り者ではないのでは?わざわざ私たちのような一般高校生を極秘に手勢として集める理由が分からない。誰にも知られることなく使える駒を裏切り者が(ほっ)するとは思えない」

「いや裏切り者だからこそ欲しいのでは?」美春は食い下がった。

「だとしたらなおさら部下を持つのは危険すぎる。わざわざ私たちを今回の事件の捜査に全面的に当たらせる理由がないし、もしそうでなかったとしても今日殉職させることもできた。生還を命じた以上、東風谷先生は今時点で私たちを使い捨てたいとは考えていない」

「じゃあ何でONIWABANを作らせたの?」今度は私が質問する番だ。

「第一は東の動向を探る新たな視点が欲しい。これは東風谷先生の言った通り。第二の目的はアウトサイダーとして、その過程で突き当たる組織内の内通者の炙り出しをしてもらうこと」

「そういうのは防諜(ぼうちょう)部の仕事では?」

「その防諜部が信用できないとしたら?」

「つまり......防諜部内部に裏切り者がいるということ?」

「大正解」

璃梨佳の笑みが薄闇に浮かび上がった。


(第10話 完)

お読みいただきありがとうございました。

お久しぶりです。月野です。

長らくご無沙汰しておりました。投稿再開です。

しばらくは隔週更新になるかと思います。何卒お手柔らかにお待ちいただけますと幸いです。

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