18話 いつもの仲間と
何の告知もせずに申し訳ありません(泣)用事など、なんらかの理由で更新が遅れる場合は必ず告知していきます。これからもよろしくお願いします。ちなみに今後の展開や構図などを考えていました。
※1〜17話まで微調整しました。よければ1からご覧ください。
休校を利用して、部員たちは少しの自由と冒険を手に入れた。ナーガフェスの余韻を胸に、練習から少し離れた時間――笑い声と自然の香りに包まれる、夏の一日が始まろうとしていた。
朝の光が音楽室に差し込み、譜面や楽器が並ぶ机の上を淡く照らす。
部員たちはナーガフェスの余韻を胸に抱きながら、静かに集まっていた。
まだ心の中に熱が残り、肩や背筋にわずかな緊張が残る。
「皆さん、おはようございます」
音楽室のドアが開き、瞬崎先生が入ってくる。
部員たちは自然と背筋を伸ばす。先週の演奏の興奮は、ほんの少し落ち着いたものの、胸の奥でまだ熱を帯びている。
「さて、まずは今後の部活方針について少し話します」
瞬崎は譜面台の前に立ち、淡々と話し始める。
「まず、6、7月の部費徴収は近日中に行います。一人一万円。詳細は各自確認してください。それから明日から、東縁高校開校記念週間で一週間休校になります。つまり、その間は練習はありません」
部員たちは一瞬ざわめき、そして互いに小さく顔を見合わせる。
休校は嬉しい反面、コンクールへ向けた練習のスケジュールが少しずれることを意味していた。
「休み明けからは夏のコンクールに向けて、さらに集中した練習に入ります。課題曲、自由曲は休み明けに発表します。お楽しみに。ナーガフェスで得た感覚を無駄にせず、全員で高めていくこと」
瞬崎の言葉に、部員たちは頷き、静かに決意を新たにする。
部室の中には、夏の熱気と挑戦への期待が静かに満ち始めていた。
放課後、響たちはバス停で帰りのバスを待っていた。夕暮れの光が少しずつ長く伸び、街路樹の影を道路に落としている。
「いよいよコンクールかぁ」
来島が口を開いた。期待と不安が入り混じった表情だった。
「全国大会金賞なんだよね、目標」
奏多がそういうと柊木も頷く。来島はずっと独り言を呟いていた。
「はぁ、怖ぇよ。まだ始まってすらないのに」
「大丈夫だよ。ナーガフェスの時だってなんやかんや上手くいったじゃん」
永井が上手くフォローする。
「ねぇ、せっかくの休みだし、みんなでキャンプ行かない?」
突然陽翔は満面の笑みで提案した。響達は一瞬驚いたが、すぐに笑みを返す。
「キャンプか……いいね、楽しそう」
来島も肩をすくめて笑った。
「おお!気分転換にはちょうどいいかもな」
柊木は少し考えてから頷く。
「うん、普段の練習じゃできないこともあるし、いいね」
しかし、永井は鞄を抱えながら首を振る。
「ごめん、僕、塾の模擬テストあるから無理かも」
奏多も少し寂しそうに微笑む。
「僕も祖父の家に帰る予定があるんだ。また次の機会にね」
「そうか……まあ、全員じゃなくても楽しいはずだよな」
陽翔は軽く肩をすくめ、残ったメンバーに向かって笑った。来島は興奮気味で口を開く。
「どうする?先輩も誘う?」
「先輩?...あぁ、どうするか?」
「一応誘ってみる?」
「誰誘うの?」
陽翔が答える。
「とりまクラリネットパート誘ってみるわ」
「僕もホルンのパート誘ってみる」
柊木もそう言った。
「じゃ響もバスパート誘っといてくれよ!そうだな、香久山先輩とか好きそうじゃない?」
「あ、そうなの?まぁいいか。うんバスパートも誘ってみる」
響は心の中で、久しぶりに部活以外の時間を仲間と過ごせることを少し楽しみに思った。
バスが到着するまでの間、響は手元のスマホを取り出し、バスパートのメンバーに次々と声をかけ始めた。
『この休暇を使ってキャンプに行く計画があるんですけど皆さんもどうですか?』
画面の向こうから返ってくる返信は様々だった。
若田からは、
『ごめん、家の用事あるから無理かも』
香久山も笑いながら、
『ごめん、勉強するから……』
一方、二年生の桜咲は少し考えたあと、メッセージを返してきた。
『若葉が行くなら、私も行こうかな』
その返信に、響の心は少し弾んだ。
さらに、今伊から返信が届く。
『いいね!僕も行く!』
すると香久山もその流れに乗り、すぐに意見を変えて送ってきた。
『じゃあ、僕も行く!』
最後に、茅野のから短い返事が届く。
『結構です』
無愛想ながらも断り方は簡潔で、茅野らしい。響は軽く肩をすくめ、残ったメンバーだけで行くことを自然に受け入れた。
「ふう、まあこんなもんか……」
響は呟き、キャンプの計画が少しずつ形になっていくのを感じた。
響は夕暮れの光に包まれた自宅の玄関のドアを開け、静かに家の中に入った。
廊下を歩くと、台所から母の声が聞こえる。
「響、おかえり。学校はどうだった?」
父は新聞を広げたまま、ちらりと視線を送る。響は軽く会釈し、鞄を置くと少しだけ息を整えた。今日のキャンプ計画のワクワクが、胸の奥で少し跳ねる。
「部活の仲間と、開校記念週間の休みを使ってキャンプに行こうって話になったんだ」
母は少し目を細めて笑った。
「そうなの、楽しそうね。仲間と過ごす時間は大事よ」
父は新聞から顔を上げ、少し眉をひそめる。
「体調管理は大丈夫か?食事とか、夜はちゃんと寝るんだぞ」
響は小さく頷き、手を胸に当てた。
「うん、みんなでちゃんと計画してるから大丈夫」
母は微笑みながら、キッチンにあるお茶の用意を整えている。
「じゃあ、準備もちゃんとしてね。危ないことや無理はしないこと」
「わかった、ありがとう」
響は自分の部屋へ向かいながら、心の中で静かに思った。家族に見守られている安心感と、仲間と過ごす楽しみが混ざり合い、心が少し温かくなる。
窓の外には、夕暮れに染まった赤い空が広がっていた。
その光の下で、響はキャンプでの時間と、部活での夏の挑戦が、どちらも楽しみだと心の中で静かに呟いた。
翌日のバスパート練習教室。
響は部屋の隅で鞄を下ろし、静かに皆の様子を見守っていた。
前方では来島と陽翔を中心に、キャンプ計画の話が大盛り上がりになっている。
「よーし、キャンプ=冒険だ!まずは俺たちで勝手に探検隊作ろうぜ!」
来島が両手を広げて大げさに宣言すると、陽翔も負けじと声を張った。
「探検隊って、俺は川に飛び込む係!」
「いや、勝手に飛び込むな!」
三年の今伊がツッコミ、眉をひそめる。
「川に飛び込むのは自由じゃない、ルール守れ」
「探検隊って……お前ら本当にキャンプ来る気あるのか?」
香久山も軽く頭を抱え、苦笑混じりに声を出す。
「今回のキャンプ場って豊川自然公園キャンプ場だよね」
柊木が紙を指しながら言う。
「アクセスもいいし、川もあるし、食材持ち込みも可能。泳ぐなら安全な場所を選べば問題なし」
「うおー、川か!じゃあ俺、勝手に飛び込むわ!」
来島がまたもや腕を振り上げる。
「だから勝手に飛び込むなって!」
今伊が突っ込み、香久山も目を丸くして苦笑する。
「俺は星見担当!」
陽翔も負けずに叫ぶ。
「ただ寝転がってるだけじゃん」
香久山が小声でツッコミ、柊木は苦笑しながら紙に何か書き込む。
響は後ろで静かに笑みを浮かべていた。部員たちの自由すぎるやり取りを聞いているだけで、心が少し温かくなる。
(ま、いいか……この賑やかさもキャンプの醍醐味だし)
響は心の中で呟く。来島と陽翔のはしゃぎっぷり、三年組のツッコミ、柊木の苦笑――全部が、夏の思い出になりそうな予感がした。
職員室の窓から午後の柔らかい光が差し込む。瞬崎は書類の山を前に椅子に座り、少し疲れた表情を浮かべていた。
副顧問の瀬戸川は、コーヒーを片手に窓際に立ちながら、静かに話しかける。
「先週のナーガフェス、部員たちはよく頑張りましたね」
瞬崎が口を開く。
「ええ、特に一年生の初舞台は見事でした」
「……でも、ちょっと気になったのは、二年生や三年生が少したるんでいるんじゃないかということです」
瀬戸川は眉をひそめ、窓の外を見ながら言った。
「ほう?」
瞬崎が少し驚く。
「表面上はしっかりしているんですが、練習や準備で集中力が切れている場面もあります。特に三年生……もう少し引き締めが必要ですね」
瞬崎は書類に目を落とし、少し考え込む。
「なるほど。確かに……夏のコンクールに向けて、意識を整え直させる必要がありそうですね」
瀬戸川はふと口を開く。
「そういえば、天奏若葉さんが復帰したそうですね」
瞬崎が顔を上げる。
「ええ、部活に戻ってきました」
「ふーん、そうですか」
瀬戸川は肩をすくめ、特に気にする様子もなく続けた。
「休み明けには課題曲と自由曲を発表し、夏の大会に向けて本格的な練習に入る予定です。二・三年生には特にリーダーシップを期待したいところです」
瞬崎は窓の外を見つめ、静かに頷く。
職員室には、穏やかでありながらも、夏の大会に向けた緊張感と期待が静かに漂っていた。
部員たちの自主性に任せつつ、指導者として最低限の舵取りをする――そんな二人の思惑が、次の練習へと続いていく。
駅の改札前には、キャンプに参加する部員たちがちらほらと集まり、ざわめきながら互いの荷物を確認していた。朝の光が駅舎のガラス窓を通して差し込み、笑顔を照らす。
「よーし、集合完了!」
来島が両手を広げて大声を上げる。
「探検隊、出発だ!」
「いやだから勝手に探検隊名乗るなって!」
今伊が眉をひそめながらも、少し笑って突っ込む。柊木は紙にメモを取りつつ、参加メンバーをチェックする。
「電車の時間に遅れないようにね。座席も事前に決めておく」
「面倒くせーな」
陽翔が呟き、来島に軽く肩を叩かれる。
響は鞄を肩にかけながら、周囲の騒がしさに微笑む。
「みんな、テンション高いな……まあ、楽しそうで何より...かな」
駅のホームに列車が滑り込むと、部員たちは荷物を抱えて乗り込んだ。車内はすぐに賑やかな声で満たされる。
「川は絶対飛び込むからな!」
来島が宣言すると、
「無理するなってば!」
今伊が小さく叫ぶ。
「でも、星空も楽しみだよな」
「いや、それ寝転がってるだけだろ」
香久山が小声で突っ込む。
窓の外には街の景色が流れ、やがて田んぼや山々が広がる。緑の匂いが漂うような風景に、部員たちは自然の広さに少し心を弾ませる。
響は静かに窓の外を眺めながら、心の中でつぶやく。
「自然の中で過ごすの、久しぶりだな…」
電車内では、川遊びや夜の星空観察、キャンプ料理などの話で盛り上がる。来島と陽翔が川遊びの段取りで言い合いをしている一方、柊木はメモを取りつつ注意を促す。
「ここは無理しないで、安全第一」
「よーし、俺は川に飛び込む役だな!」
「無理だってば、飛び込むなら深さ確認してから!」
香久山は微笑みながら、少し巻き込まれた雰囲気で呟く。
「まあ、楽しそうで何よりかな」
バスがキャンプ場に近づくと、豊川自然公園キャンプ場の広々とした芝生や木々、遠くに見える清流が目に入る。
「おおー!」
部員たちは一斉に歓声を上げ、荷物を持ってバスを降りた。
「まずはテント設営だ!」
香久山が指揮を取り、皆は各自の持ち場につく。来島は無駄に元気に駆け回り、陽翔は食材や道具を確認する。今伊は落ち着いて全体の流れを見守る。
響は少し離れた場所から全体を見渡し、心の中で静かに微笑む。
「こういう時間も、大切なんだろうな……」
芝生に寝転んで風を感じる部員、川のほとりで水遊びの段取りを確認するメンバー、荷物を整える今伊や香久山――
キャンプ場には、部員たちの声や笑いが次第に広がり、緑に囲まれた空間に小さな熱気を生み出していた。
夏の一日、ここから部員たちの小さな冒険が始まろうとしている。
澄んだ空気と木々の香り、川のせせらぎが混ざり合い、自然の中で過ごす時間の特別さが、心の奥に静かに染み込んでいく。
ふと気がつくと少し離れた場所で柊木が何かを抱えて森の奥に入って行った。
一瞬、何をしているのか理解できず、響は息を呑む。次の瞬間、抱えているものが見え、思わず口元がゆるむ。
「……ホルン?」
テントを張り、川のせせらぎや森の風を感じながら、部員たちはそれぞれの夏の時間を楽しんでいた。
自然に囲まれた一日は、仲間との距離を少しだけ近づける特別な時間になった。
感想、評価お待ちしてます!次回もお楽しみに!




