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第5話 不穏な朝

 朝は授業という名のキツいしごきをこなし、昼は授業の見学、そして夕方はバイストン先生との特別授業と言う一日の流れを組み十日が過ぎた。

 毎日ボロボロになりながらも俺たちは確実に強くなっている。

 このままいけば月末にはさらに力をつけれているはず、そう確信していた。


 月末の入れ替え戦まで残り20日を切った頃の朝、俺たちが寝泊まりしている学生寮に荷物が届いた。月の真ん中は寮生に送られた荷物が一気に届く。俺も親から手紙と替えの服やら身銭やらが送られていた。


「クルーサは相変わらず荷物が多いな」

「パパは商人だからね〜気に入ったものはなんでも送ってくんの、まぁほとんど売って小遣いにしてるけど」

「お前も中々の商人だよ」


 よく分からない銅像や絵画など様々な荷物を仕分けながらクルーサは頭を悩ませている。


「ロンディは?」

「……あ、俺は手紙だけだ」


 少し変な間があった。手紙に釘付けになったロンディはこちらを向かない。


「俺も手紙読むか」


 衣類は端に追いやり、身銭を貯金箱に入れ手紙の封を切る。

 アッシュへ、そう始まった手紙は村の近況や俺への心配事が長々と綴られていた。


『セシリアちゃんにあなたの事を聞いても何も答えなかったけどもしかして喧嘩でもしたの? 二人は生まれた時から仲良しなんだから仲直りしなさい。アッシュがグレイド学園で頑張ってるのを直接聞きたいから、来年こそは帰ってきてね』


 そう終わった手紙を俺は静かに折りたたみ、置き場所に困っていた。

 セシリアは俺の事を誰にも言ってなかった。手紙が来た時、説教まみれを覚悟したが、もしかしてアイツはあえて喋らないでいてくれたのか。考え過ぎか。


「あれ? ロンディはどこ行ったの?」

「そう言えばいつの間に」

「まぁそのうち来るっしょ? 早く修練所行かないとジャックス先生がブチギレるよ」

「あぁ急ごう!」


 結局この後もロンディは姿を見せなかった。

 ジャックス先生に居場所を聞いても知らないと一蹴される。

 仕方ないから今日は授業見学をやめてロンディを探すことにした。


「って言ってもあの真面目ロンディがどこでサボってるかなんてわかんないよぉ、てかロンディの頭の中にサボりって言葉存在してたの?」

「確かに、あいつなら死にかけていても這って訓練に来そうだし」


 余程の事情がない限り基本的に外出許可は青銅組ブロンズクラス以上じゃないと貰えない。普通に考えれば学園内に居る筈だ。


「もしかして秘密の個人特訓とか? 人に努力を見せるのが恥ずかちいって思ってるかもよ?」

「それこそあの筋肉ダルマに限ってないだろ……まぁ訓練棟辺りを探してみるか」


 第四以上の設備はクズ鉄組だけでは使えない。だが第五のどの場所にもロンディはいなかった。

 俺は少し嫌な予感がしていた。


「もしかしてロンディ他のパーティーに入ったんじゃ……どうしよアッシュ!?」

「お、おおお落ち着け、そう決まったわけじゃない」

「でも……」


 それ以上にあの手紙が気になる。

 もしかしてあいつの村に何かあったのか。

 だからと言って人の物を盗み見する理由はない、あいつの口から話すのを待つしかないのか。


「あれ? なんか騒がしくない」

「……第四の方からか」


 訓練棟は12階あり、第一から第五まで各二階分と一階に職員室、最上階に備品室がある。

 第五は10と11階にあるためその下の8と9階が第四修練所普通の鉄組アイアンクラス達が使う場所だ。


「帰るついでに見てこうよ! 面白そう!」

「さっきまでのシリアス顔はどこ行った」

「考えても仕方ない、今は目の前の祭りに乗るしかないっしょ!」


 ある意味クルーサの性格が羨ましい。

 どの道今から見学に行っても中途半端で変に目立つだけだし俺も野次馬に参加しよう。


 一つ階を降りた9階、第四魔法発射場の前で男の怒鳴り声が響いていた。


「ここは俺たち青銅組が今から使うの、お前ら鉄組は我慢しろって何回言えばわかんの?」

「で、でも第四は……き、基本的に鉄組の設備です、青銅組は第三があるじゃ、な、ななないですか?」


 もう流れが読めた。

 青銅組の実力下位の生徒が設備を強い奴に取られて、仕方なく上に上がってきて後輩たちから奪ってるって感じか。鉄組の生徒も可哀想に。実際去年経験したことあるから鉄組の気持ちは理解できる。


「あれウィルじゃん」

「え、あの泣きっ面ウィルなのか?」


 去年俺たちと一緒に入学して、年末試験では敗者戦で俺たちのパーティーが負傷により不戦敗になったことで勝ち星を獲得し青銅組に上がった奴だ。よくキツい訓練に泣きながらも全力でがむしゃらに頑張っていた面白い奴。なのに今は後輩いびりときたか。


「青銅組に上がったらあんな感じになっちゃうの? やだね〜」

「先輩として助けてやるか」

「いいね、着いていくよ」


 今にも泣き出しそうな鉄組の生徒、よりにもよって女子じゃないか、小柄で拳一発で倒れてしまいそうなほど華奢な体、ウィルは無駄にガタイがデカいから威圧感もあるだろう。

 野次馬たちを掻き分けて騒ぎの中心に立つ。


「あ? なんの用だよ」

「あんまり後輩をいじめるなよウィル」

「正直言ってかっこ悪いよん、モテなくなるからやめときなって」

「アッシュとクルーサ……クズ鉄組の居心地はどうだ? 一人足りねぇじゃん、ロンディは逃げて辞めちまったか?」


 立場が人を変えるとはこういう事か、実力で言えば俺達以下と言うことを理解してるはずなのによくそんな態度が取れたもんだ。


「今お前たちに構ってる暇はないの、わかったら第五のボロ部屋に行けよ、落ちこぼれ」


 コイツの相手をするのは時間の無駄だと言うことは分かってる。でも俺自身のことを馬鹿にされる以上に仲間をばかにするのは気分が悪いな。

 クルーサは今にも殴りかかってしまいそうだし。コイツはロンディを誰よりも気に入ってるから相当頭に来てるだろう。


「調子に――」

「そうだな、お前名前は?」


 詰め寄ろうとするクルーサを遮り女子生徒の方を見る。


「エリナです」

「もしあれだったら第五使ってけよ、壊したら俺たちが直しておくし」

「でも……」

「こんな奴に時間使うくらいなら少しでも早く訓練した方がいいと思うんだけど……違う?」

「クズ鉄組が言うじゃん、俺たちに負けて落とされたクセによ!」


 横に立つクルーサが目の前を通り過ぎる、真っ直ぐ前に突き出された模擬短刀がウィルの眼前で停止した。

 咄嗟に腕を掴んだがどうやら本気で攻撃する気は……あったが踏みとどまれたようだ。


「わかってるよアッちん、こんな奴のせいで怒られるのは嫌だしね」


 生徒同士は教師からの正式な許可が無い限り、戦闘行為もとい相手に危害を与えてはいけない。違反者には程度によって処罰が下される。


「エリナ、今日は我慢してやってくれ……青銅組も大変なんだよ」

「わ、わかりました」


 エリナは一人で部屋に入ろうとしたのか、中は青銅組の生徒たちに占領されていた。どうせ入っても気まずいだろうし、一人なら第五でもいいだろう。

 俺たちは足早にこの場を離れた。


「ウィルの奴本っ当に腹立つ、次の入れ替え戦あいつにしない?」

「いや、今回はセシリアだ、あいつは長く持たないよ……来年には、いや、中間までに落とされるかもな、俺たち以外の誰かに目をつけられて」


 結局その後もロンディを見つけることは出来なかった。

 バイストン先生に事情を説明して今日の特別授業を中止にしてもらい寮に戻る。


「あ、ロンディ」

「よぉ……今日は早いな」


 寮の入口にロンディが立っている。大きな荷物を背負って。

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