表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

体育祭練習

ぐるぐる色んなことを考えてもう1ヶ月が経ちとうとう、この季節が来た。


「はいはーい、静かにー。そこの男子、立ち歩かない!」

2-B組にて

担任の佐藤先生が手を叩きながら、教室の前で声を張った。

毎年恒例 、5月、つまり、、体育祭の準備が始まるこの時期――クラス対抗の種目決めは、毎年なんとも言えない空気になる。

(俺だけかもだけど。)


「いいかー、今年は例年通りリレー、玉入れ、大縄、障害物、あと二人三脚な。希望出して~」


「リレーは無理!」「いや俺いける!」「足速い自信あんの!?」


クラス内がざわつく中、悠は静かに自分の席でプリントを見ていた。

別に、出たくないわけじゃない。ただ、無理に前に出るタイプでもない。


「悠ー、お前なに出る?」

前の席の拓也が、イスをくるっと回して聞いてきた。


「ん……玉入れとか、大縄……かな。」


「いや、なんでそんな安全種目……」


「誰かと息合わせてやるの、好きだから。……あ、二人三脚もいいかも。」


「え、マジ!? 俺と出よや!」


「ふふ、いいよー!でも拓也、たぶん彼女と出たかったんじゃない?」


「……っ、それ言うなや!他校やねんから!!!」


笑い合うふたりのやりとりを、後ろの席で雅哉はなんとなく聞いていた。

手元のペンを指で回しながら、前を向いてるふうで、耳はそっと悠の方を向いていた。


「お、雅哉。お前クラスおんの珍しいな!!始めてちゃう??じゃなくてーそれはおいといて!!お前リレーいけるやろ?」

雅哉の友達の足立が声をかける。


「あー、んー、まぁ……別に、いいけど。」


「マジか!頼むわ!アンカーいけアンカー!」


「うっわ、かっけぇ~」「優勝やん!」「雅哉くんって話せる人なんだ」「ね、今日始めてクラス来てるけどやっぱかっこいいねー」「だね。彼女いるのかなー?」「えーヤンキーだよ??」


周りが色んな声でざわつく中、雅哉の視線がほんの一瞬、前の悠に向いた。


ちょうどその時、悠もふと後ろを見て、目が合う。

一秒ほど、そのまま視線が重なった。


(……なんで見てたんだろう。)

そう思ったけど、言葉にはせず、雅哉はまた前を向いた。


悠は少し不思議そうに、でも嫌な気配は感じなかった。

どこか、風がふわっと吹いたような静かな間だった。


「はいはい、決まった人前来て名前書いて提出ー!」


先生の声でざわめきがまた広がる。

悠は立ち上がって、プリントを手にゆっくり前へ向かう。


その後ろ姿を、雅哉は無意識にもう一度だけ見ていた。


その頃、悠はプリントを手に、前の黒板のところまで歩いていった。

種目名の横には、すでに何人かの名前が並びはじめている。


「二人三脚、まだ空いてる…え、拓也ー!やらないのかな、、?」


そうつぶやいて、とりあえず自分の名前を書こうとした時だった。


「そこ、空いてんの?」


低くて少しかすれた声が、すぐ後ろから聞こえた。

振り返ると、雅哉が無表情のままプリントをのぞき込んでいた。


「うーん、拓也。やろうっていってたんだけど、、うーん、……二人三脚、まだ誰も書いてないからとりあえず埋めとこかなって。」


「なら俺、それ出るわ。」


「え……?」


そのまま無言で、悠の横に立って雅哉は自分の名前を書き入れる。

隣に「西堂悠」の名前があるのを見て、少しだけペンを止めてから――さらりと自分の名前を横に書いた。


「……いいの?」


悠が静かに聞いた。


「いいから書いたんや。」


「ふふ……そっか。よろしくね。」


ふたりの名前が並ぶその欄を、しばらく見つめてから、悠は静かに笑った。

ほんの少し、胸の奥が温かくなるような感覚があったけれど――それが何かまでは、まだ分からなかった。


「ほら、二人三脚空いてる!!早く書いてー!」


佐藤先生が全体に声をかける。


「あ、先生もう書いたっす。」


「おー!三枝と西堂!?なんか意外な組み合わせやな~。ちょっと楽しみ!応援しとく!」


そう言ってプリントを回収していく先生を横目に、雅哉はちらりと悠を見た。


「……足、引っぱんなよ。」


「うん、ちゃんと練習する。」


悠はその言葉に、気分を悪くするでもなく、ただいつも通りの優しい声で返した。


その返しに、雅哉が少しだけ目を伏せる。


(なんなんやろ、この感じ。)


「え、待ってや!!悠、俺とやるって言ってたやんかー!!」


「あー、拓也。だって全然話聞いてくれんかったし。また違うの出よ」


「ちぇっ、まぁいっかー!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ