この感情は2
「悠~!戻ってくるなりおかしいぞー?起きてる~!?脳みそ動いてる~!?おーい!」
雅哉とお昼を食べ終わり自分の教室に帰り、悠が静かに本を読んでると、後ろからテンション高めな声が飛んできた。
「……うるさいよ拓也。動いてる。」
「ほんまに?今の悠、完全に魂抜けてたで?それで次の数学乗り切れるん?」
「……拓也が言うなよ。こないだも授業中、ずっと窓の外見てたくせに。」
「いやいやいや、俺はアレよ、“心で数式を感じてた”んやって。芸術と一緒!」
「その芸術で赤点とったらどうすんの。」
「お母さん泣くなぁ~……って、ちゃうねん!今日はちょっと聞いてほしいことあって来たんやって!」
悠が目を細めて顔を上げると、拓也がドヤ顔で机に手をドンッと置いた。
「昨日な、彼女が“好きな人の前では素直になれへん”とか言い出してん!」
「……へぇ。」
「でな?俺、軽く“え?それ本人に言っちゃうー?そんなん普通にいつも通りにして言ってくれてええのに”って言ったら、急に泣かれてさ!」
「……え、それ、拓也が悪いわけじゃないよね?どゆこと?彼女難しいね。」
「わからん。けど俺、最近女心ってほんま難しいなって思ってきてん。悠、どう思う?」
「……俺に聞くの?」
「いや、お前なら冷静に分析してくれそうやし。そんで『拓也はもっと○○した方がいい』とか言ってくれるやろ?」
悠は小さく笑った。
「たぶん、素直になれないって言ってる時点で、十分素直なんだよ。」
「……え、どういうこと?」
「本当に素直じゃない人は、そういうこと自分から言わないよ。そう言ってあげて。わかんないけど」
「おお……!」
拓也は目を丸くして、感心したように大きくうなずく。
「さすが悠……モテないけど、こういうとこはモテるタイプやな!さすが恋愛小説読んでるだけあるねー」
「一言余計だし、モテないって断言しなくていいよ。」
「いやいや、褒めてんねんて。お前、クラスの女子から“話しやすい”って言われてるぞ?たぶん」
「多分かよ、……まぁ、俺、みんなと話したこと…ないからね。ないよ。それは。」
「それがまた良いんよ~。高嶺の花って言うやつ!?なんかほら、静かやけどちゃんとしてそうやし、優しいし、頭いいし。彼氏にするには、、うーん恋愛対象になるまでが遠いっていう……」
「……あのさ、褒めてるのかディスってるのか、どっちかにしてくれる?」
「褒めてる褒めてる!男から見ても、お前は良いやつや!」
「それは嬉しいかも。ありがと。」
「……で、最近ぼーっとしてますけど、、、?気になる人とかおるんじゃないんですかー??」
その一言に、悠は一瞬だけ手を止めた。
でも、すぐにまた下を向いて、さも何もないように答える。
「……いない。」
「ほぉ~~~?今、ちょっと間あったな?下向いとったし」
「なかったし、向いてないよ。気のせい。」
「あったやろぉ!?誰や!?まさか同じクラスとか!?」
「ほんとにいないってば。」
「え~~絶対おるって……あ、もしかして、俺?俺しか話したことないもんな!?」
「拓也の彼女に刺される未来しか見えないからやめて。」
ーていうか、拓也しか話したことないの分かっててさっき言ってきたの??ディスりじゃんやっぱ!
「彼女が俺のために、、、!それはそれで萌えるな……ってちょっと、そこ無言で睨むなって!」
「はぁ……。」
悠は呆れつつも、どこか楽しそうに笑った。
拓也と話してると、自然と口数が増える。
自分を飾らなくてもいい感じが、落ち着く。
「でさ、帰りにコンビニ寄って新作スイーツ買ってこうや。彼女と一緒に食べよ思って。悠もいる?」
「……一口だけなら。」
「よっしゃ、決まりや!俺ら、グルメな男目指そな!」
「……なにそれ。」