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静かな場所で、君と3

教室の隅で悠は、ずっと同じページを読んでいた。

目は文字を追っているのに、頭の中ではまったく違う映像が流れている。


(……あれ、昨日の声、やっぱりいつもよりちょっと低かったな)

(机に頬杖つくと、前髪、少し落ちるんだ)

(あのとき、なんで俺に話しかけてくれて……)


気づけば、雅哉のことを考えている時間が増えていた。

本を読むはずの放課後も、帰り道の電車でも、朝のHR前でも。

話す回数は多くないのに、なんとなく――印象に残る。


「……って、考えすぎ。」


自分に言い聞かせて、廊下に出る。

ちょうど昼休みで、生徒がそこそこ行き来していた。


悠は前を見ずに歩いていて、

曲がり角で、誰かと勢いよくぶつかった。


「うわっ、ごめ――」


「っ、悠?」


その声に、心臓が一瞬止まりかけた。

顔を上げると、制服の前をはだけ気味にしたままの雅哉がいた。


「大丈夫か?痛ない?」


「え、あ、うん……ごめん、前見てなくて……」


そう言いながらしゃがんだ悠の手元に、落ちたプリントがばさばさと広がっている。

それを、雅哉が無言で拾い始めた。


一枚ずつ、丁寧に。

折れないように、揃えてから手渡してくれる。


「……ありがとう。」


「怪我してへん?」


「平気。」


「ほんまに?」


悠の右手にそっと、雅哉の手が重なる。

どこかにぶつけていないか確かめるように、ゆっくりと手を取るその仕草は――驚くほど、やさしかった。


「……優しすぎ。雅哉くん、いつもと違う。」


思わず口に出してしまった言葉に、雅哉は少しだけ苦笑した。


「は?いつもやろ、これが。」


「うそだ。噂じゃ、全然……あ、ごめん、」


「ああ。よー言われる気にすんな。それにや、それは……お前のせいやわ」


「俺のせい?」


「うん。お前、なんか……なんやろ、壁があってさ、そこを、、無理に触ったら、壊れそうみたいな感じやん。」


「なにそれ??」


「いや、俺もわからんなってきたわ」

言葉が、喉で止まった。

何その笑顔

そんなふうにまっすぐ見つめられて、やさしくされて――


悠は、胸の奥がぎゅっと締めつけられるような感覚に襲われた。

これは、なんだろう。

不意に手を取られたことでも、目を見て話されたことでもなく、

ただその笑顔に――心が、ほんの少し、震えた。


「……ありがと。ほんとに。」


「うん。」


それだけ言って、雅哉は立ち上がった。

プリントの束を胸に抱えながら、悠は自分の手をそっと見つめる。


握られた場所が、まだ少し熱を持っている気がした。


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