表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

静かな場所で、君と2

放課後の図書室は、予想以上に静かだった。

入り口近くには何人か生徒がいるものの、窓際の一角には誰もいない。


悠は迷いながらも、そこに座った。

机の上には借りたばかりの文庫本。ページをめくると、紙の匂いがふわりと立つ。


「……お、いた。お前やっぱ図書室にもおるんやな」


不意に背後から声がして、ビクッと肩が跳ねた。

振り向くと、制服のネクタイをだらしなく締めたままの雅哉が、手を突っ込んだポケットごとこちらに歩いてくる。


「ここ、座ってええ?」

「……どうぞ。」


最近よく俺のところに来てくれるんだよな、けど理由は聞かない。聞いたらなんか、ダメなような気がしちゃって。


雅哉は大きな音を立て椅子を引きしばらく何も言わずに机に頬杖をついた。


「なあ、悠って毎日こんなん読んでんの?」


「うん、まあ……」

悠は手元の本を少しだけ持ち上げて見せた。


「面白いんか?」


「別に、面白いっていうより……落ち着く、かな。」


「ふーん……。俺さ、こないだ誘って行ったやん??けど実は正直活字とか苦手やねん。なんか眠くなる。」


「知ってる。」


「ひでぇ。」


悠はくすっと笑った。

笑った自分に少し驚いて、すぐにまたページへ目を戻す。


「なにがそんなに面白いん?」


「登場人物の考えてることとか、感情がちゃんと書かれてるのが、好きかな。」


「……ふーん。」


雅哉はしばらく黙っていた。

その沈黙に焦ることもなく、悠は本を読み続ける。ページをめくる音と、遠くの時計の針が進む音だけが聞こえる。


「なあ。」


「うん?」


「悠って、怒ったりすんの?」


「は?」


「いや、ずっと落ち着いてるやん。授業中も、昼休みも。本読んでるときも。」


「……怒るときは怒るよ。」


「マジか。ちょっと見てみたいかも。」


「やめて。」


そう言いながらも、雅哉は口元をゆるめて笑っていた。

その笑い方が、少しだけ意外で――でも、嫌じゃなかった。


特に何を話すわけでもなく、何かをするわけでもなく、

ただ、同じ机に並んで本を開く時間が、想像していたより悪くなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ