静かな場所で、君と
その週の土曜日、悠は少し緊張しながらも、駅前の図書館の入口に立っていた。
待ち合わせ時間より10分早く着いたのに、雅哉はすでにいた。制服じゃなく、私服のパーカー姿で、少し照れくさそうにスマホをいじっていた。
「あ、悠やん。早いやん」
「三枝くんこそ…早くてびっくりした」
「敬語外れてるやん!嬉しい。あとは、、雅哉でいいよ!!はよ来たのはお前が逃げへんように、見張っとかなあかん思って」
冗談交じりに笑う雅哉に、悠の顔が自然と緩む。
館内は静かで落ち着いた空気が流れていた。
二人は同じ机に座り、最初は読書をしていたけれど、どこか気まずい空気が漂っていた。
「なあ…」と、雅哉がぽつりと声を出した。「お前って、ほんまに静かやな」
「うん…昔からそうで…なんか、うるさいの苦手でさ」
「俺とは真逆やな」
そう言って、雅哉が笑う。
けど、嫌味じゃなくて、なんか優しい感じ…
「けどな、お前みたいなやつ、俺…なんか気になるんや」
「……え?」
「変な意味ちゃうで、ただ…一緒におって、落ち着くっちゅうか。俺、すぐカッとなるやん?でも、お前とおると、なんか…静かになれる」
悠は一瞬、心臓が跳ねた。そんなふうに思ってくれてたなんて。
「…俺も、ちょっと嬉しい。怖いと思ってたけど、話してみたら全然そんなことなかったし…」
「怖い、って言った?」
「あっ…ご、ごめん、そういう意味じゃ――」
雅哉が急に笑い出す。
「いや、ええよ。俺、見た目だけでそう思われるの慣れとるし。お前だけや、ちゃんと中身見ようとしてくれたん」
その言葉に、悠は胸が温かくなった。
ふと、雅哉が手を伸ばして、悠の手の甲に触れた。
びくっとしたけど、そのまま手を引っ込めずにいたら、雅哉がちょっと照れくさそうに言った。
「なあ、これからもさ、たまにこうやって会ったり…してええ?」
「…うん」
静かに、でも確かに、そう答えると、雅哉の指先が、悠の指をそっと絡めてきた。
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この時はまだ、“好き”って言葉にはならなかったけど、
二人の間には確かに、何かが芽生えていた。