第6話 波乱の一日
「じゃあ、梁矢の席はあそこな」
「はい」
鈴さんの席は廊下側の一番後ろ、生徒に二番目くらいに人気な位置にあった。
そこに向かい座る鈴さん。チラチラとこちらを見てくるのを止めてほしい。
「はい。それではHRを始めるぞ〜」
鈴さんが席に着いたのを確認し、先生はHRを開始した。
☆ ♡ ☆
HRが終わり、先生が教室を出た瞬間に一斉に生徒が分裂した。
女子は鈴さんの元に。男子は俺の元に。
「おい、梁矢! お前、鈴さんとどういう関係なんだ!」
「別に。大した関係じゃないよ」
「嘘をつくな〜! 大した関係じゃないなら、なぜ名字が同じなんだ!」
「梁矢なんて名字──」
「梁矢なんて珍しい名字、中々いねぇよ!」
「うるさ……」
「こうなったら、鈴さんに直接聞いてくる!」
「お〜行け行け」
男子達は、鈴さんの方へと向かって行った。
「君が今日元気がなかった理由はこれか」
「紅」
俺の前に、紅がやってくる。
「俺は別に何も言ってないけど?」
「梁矢なんて珍しい名字、そうそういないからね。大方、親父さんが再婚して、義理の兄妹ができたってとこかな?」
察しがよすぎて怖いわ。
「お前に隠し事はできないか」
「まぁ、別に隠し事はあってもいいんだけどね」
「お前の言う通り、親父が再婚した。そして、二人の義理の兄妹ができた」
「ふ、二人……!? もう一人いるとは流石に予想外だな……。もう一人は別のクラスなのかな?」
「いんや。もう一人は三年生の方にいると思う。二つ年上だから」
「お姉さんか……鈴さんとは?」
「鈴さんはどうやら妹らしい」
「なるほど……優」
「んだよ」
紅は、俺の肩に手を置いてきた。どうしたんだ? 急に。
「何かあったら、すぐに僕に言えよ? いつでも話聞くからな」
「あ、あぁ……ありがとう?」
「なんで疑問形なの。っと、鈴さん一行がご登場だよ」
「え……?」
紅がそう言いながら、俺の側から離れていく。
と、それと同時に、女子と男子を大勢引き連れた鈴さんが俺の元にやって来た。
「優君」
「ん?」
「ごめんね……みんなに言っちゃった……私達が兄妹になったって事……」
「まぁ、別に隠す事でもないから言ってもいいと思いますよ。俺と鈴さんは親の再婚で義理の兄妹になっただけのただの同級生。それ以下でもそれ以上でもない。ただそれだけだ」
「………………」
少し冷たい言い方だが、俺はそう言った。
その言葉を受け、鈴さんの表情が少し曇った気がした。まぁ、気のせいだろう。
「んじゃ」
「ど、どこに……?」
鈴さんが声をかけてくる。
「トイレに」
「あ、うん……」
俺がそう言うと、鈴さんは俯き半歩引いた。
そして、俺は教室を出てトイレに向かった。
☆ ♡ ☆
「はぁ〜……」
俺は今、屋上へ向かう階段を登っている。
手にはおにぎりやパンを持って。
「まさか、あんなに色々聞かれるとは……男子からの殺意を向けられるのって、ヤバいな……」
そう。俺はあの後、教室に戻ったら男子からは殺意を向けられ、女子達からはなんだこいつと言う目で見られた。
「まぁ、あんな冷たい態度取ればそうなるよな」
別に拒否しようとか距離を置こうとかそういう訳では……まぁ、距離はちょっと置こうと思ってるけど。
「ってか、何食べるから分かんなかったから色々買ったら、重い……!」
袋には飲み物も入っているので、パンパンになっててめちゃくちゃ重い!
「もう少しだ〜!」
俺はなんとか屋上にたどり着いた。
屋上の扉を開け、二人を探す。
「お、いたいた」
二人は、校庭が見えるフェンスの所に立っていた。
「お待たせしました」
「あ、優君」
湊さんが微笑みながら、振り返る。
鈴さんも振り返るが、その顔は少し暗かった。
「色々買ってきたので、お好きなものを選んでください」
「ありがとうございます」
「ありがとう、ございます……」
二人は俺から袋を受け取り、食べたい物を選んでいく。
「「「いただきます」」」
俺達は昼食を取り始めた。
その間、俺達の間に会話はなかった。
☆ ♡ ☆
放課後。
「あ〜……! やっと終わった」
「お疲れ、優。ご苦労だったね」
「紅」
俺が机に突っ伏していると、紅が声をかけてきた。
「みんなには僕から言っておくから、来週の月曜日には収まってると思うよ」
「あんがとよ。さて、行くかな」
「バイト?」
「あぁ。二人分食費が増えるんだ。頑張んないとな」
「大変だね。何か手伝える事があったらなんでも言ってね」
「あぁ。じゃあな」
「うん」
俺は紅に別れを告げ、バイト先へと向かった。
なんか、今日一日がめちゃくちゃ長く感じた。
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