第22話 反省の1日
私はなんて無能なんだろう……。
トイレを見せてしまった後、私はリビングに向かった。
すると、そこには顔を真っ赤にした鈴がいた。
話を聞いてみると、お風呂から上がってパンツを穿こうとしているところを、優君に見せてしまったらしい。
優君はものすごい勢いでドアを閉め、部屋に戻っていったらしい。
至らない姉妹で、本当にごめんなさい……!
そのあと、優君を呼びにいき、なんとか部屋から出てきてもらった。
しっかりと謝罪をしたら、今後二度とこういう事がないようにって、優君はこの家での事を全て私達優先にすると言い出した。
それはさすがに駄目だ。
いくら再婚して、家族になると言っても、ここは元々優君が一人で住んでいた所。
そこに私達はお邪魔している。だから、全部を後から来た私達優先にするのはおかしい。
それと、女子だからとかそいうのは関係ない。
着替えとかの時に鉢合わせしたくないのなら、私達女子の方だって細心の注意を払っておけばいいだけ。男子の方だけが気を遣うのはおかしすぎる。
優君が見られて嫌だったでしょ、と言う。
隣で鈴が、別に嫌じゃなかったと小声で呟くのが聞こえて、私は心の中で深く同意した。
確かに、トイレを見られたのは恥ずかしかったけど、嫌だとかそういう訳ではなかった。
優君がそういう特殊性癖を持っているのであれば私は受け入れられますよ、はい。
私達を優先する事は決定してしまったけれど、それでは本当に申し訳ない。
だから、その他の事で役に立ったり、貢献しようと思った。
だから、料理やお掃除、洗濯をしたんだけど……。
結果はボロボロ。
包丁で指を切って怪我しちゃうし、掃除機で水を吸って掃除機壊しちゃうし、洗濯機壊しちゃうし……何をやっても上手くいかなかった。
お家ではお母さんが全部やってくれてたから、自分でやる必要がなく、家事を教わってこなかった。
その怠惰が招いた結果がこれだ。
包丁一つすらまともに扱えず、二つの家電を一気に壊してしまう。
自分の無能さに、呆れすぎて言葉も出ない。
私と鈴は、呆然とする優君の前へゆっくりと正座をして土下座をする。
こうでもしないと謝罪の気持ちを表せないから。
でも、優君は優しく許してくれた。なんでもっと怒らないのか……。
急に二人も押しかけてきて、家電を二つも壊されたのに、なんで……。
普通ならもっと怒るところなのに……。
私達がシュンとしていると、優君が学校に行こうと言い出した。
あ、そうだった。すっかり忘れてたけど、今日は平日。学校がある日だ。
私と鈴は優君が通う高校に転校する。
今日がその初日だ。
確かにそろそろ準備しなきゃと思ったら、優君が購買でお昼を買うと言い出した。
購買って、初めて聞いた。
どうやら、コンビニみたいにおにぎりやパンなどが売っているらしい。
何気に楽しみ。
「はぁ〜……」
一旦それぞれが部屋に戻り、制服に着替える事に。
私は下着姿で、制服を手に持ったままため息をついていた。
「第一印象が一番大事なのに、これじゃあ明らかに悪い印象しかないよね……」
Yシャツを着て、スカートを穿く。
新しい制服に、普段の私であればテンションが上がるのだが、今はとてもそんな気になれなかった。
そして、事件はここから。
着替えが終わり、リビングに再集合。
うん。優君の制服姿、格好いい。
あ、優君今、胸見た。
やっぱり、気になるんだね。
すぐに目をそらして、見ないようにしてくれるけど、別に見てもいいんだよ?
ここには私達しかいないんだし。
でもまぁ、こういう紳士な所 ”昔から変わってない” な。
と、思っていると、優君が鈴に財布の事を聞いてくる。
お母さんから、家賃や食費などのお金を渡されている。
それを、優君に渡してしっかりと管理してもらうようにと言われた。
正直、鈴に持たせるのは不安だったけど、本人が大丈夫と言うので持たせた。
でも、すぐにその判断が失敗だったと気付かされる。
「す、鈴さん……?」
「鈴、どうしたの?」
「あ、あ、あ……」
鈴が鞄から財布を出そうとするけど、すぐに顔を真っ青にさせて鞄を漁っていく。
その表情はみるみる内に、焦りをはらんでいく。
「ない……ない……なんで!?」
「「っ!?」」
「なんで……なんで……なんで……!?」
「ど、どうしたのよ、鈴」
「ないの……」
「何が」
「財布が、財布がないの!?」
「「え!?」」
衝撃的な言葉を、鈴が発した。
「なんで……!? 確かに昨日まではここに入れてあったのに!? あの財布には生活費とか食費とか全部のお金と、学生証とか全部入ってるのに……!?」
鈴のその言葉を聞いた瞬間、私の中で怒りが静かに爆発した。
だからだろう。自分でも驚くくらい低く冷たい声が出たのは。
「鈴」
「は、はひっ!?」
「学校終わったら、お部屋においで?」
「は、はい……」
ほら、鈴。あなたが私を怒らせるから優君まで怖がってるじゃない。
全部あなたのせいよ。
お財布がないとなると、何もできない。
どうしたものか……と、私が思考を巡らせていると、優君がお昼を買ってくれると言う。
さすがに申し訳なさすぎて断ろうとしたが、今は何も買えない。
流石に何も食べずに、一日を過ごす事ができないので、お言葉に甘える事にした。
リクエストがあるかどうかを聞いてくれたけど、買ってもらう分際でそんなワガママは言えない。
それに、学校に何が売ってるのか分からないので、リクエストのしようがなかった。
なので、優君セレクトで買ってもらう事にした。
生意気にも鈴がリクエストしようとしたので、さっきの低い声を無意識に出し、牽制した。
お昼になり、屋上で優君を待っていると、鈴の元気がないことに気がついた。
訳を聞いてもよかったけど、長くなりそうな予感がしたので後回しにした。
優君はいっぱい買ってきてくれた。
必ずこの代金は返そう。
私はそう決めて、優君が買ってきてくれたご飯を食べ始めた。
放課後になり、私と鈴は職員室にいた。
理由は、学生証を紛失してしまった事の説明と、優君との同居についての説明だった。
学生証は再発行してくれるらしい。
まぁ、こっぴどく叱られたけど。
そんな職員室の帰り、鈴は急いで教室に向かって行った。
でも、すぐに暗い顔をして戻ってきた。
「はぁ〜……」
「さっきからため息ばっかり。どうしたのよ、鈴」
「うん……私、優君に嫌われちゃったかも……」
様子がおかしいので、さっき先送りにしたのも合わせて聞いてみようと思い尋ねると、そんな答えが帰ってきた。
どうやら、優君はすでに帰ってしまっていたらしく、それがショックだったようだ。
「また後でも言えなかったし、バイトをしている事も知らなかった……」
「まぁ、今日会ったばっかりなんだから、知らなくて当然じゃない?」
そもそも、最初から知っていたらそれはそれで怖いと思うんだけど。
「うん……でも、優君、私と深く関わるつもりはないって……」
「そっか……まぁ、まだ初日だから。そんな気を落とさなくても大丈夫よ。これから仲を深めて行けばいいんだから」
「うん……」
『深く関わるつもりはない』か……。正直、心にくるものがある。
一応、これから家族になるんだから、できれば仲良くなりたい。私はそう思っている。
だが『仲良くなる』と『深く関わる』は違う。
親しき仲にも礼儀あり、と言う言葉があるように、仲良くなったとしてもある程度のラインは守らなければならない。
優君のそのラインがどのくらいなのかは分からないけど、これから接していく上で言動にはかなり気をつけた方がいいだろう。
だって、嫌われたくないから。
「ほら、紛失届出すよ」
「うん……」
私と鈴は、紛失届を出す為に警察署へと向かった。
少し長くなってしまい、申し訳ございません……!
次話では、湊の転校初日の様子を描きますので、お楽しみになさっていてください!




