表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

第2話: ガレスと特別な料理

《グリーンリーフ亭》の夕方。酒場が一番活気づく時間帯、遼は厨房で仕込みを進めながら客の声を聞き流していた。しかし、カウンター席から聞こえてくる重低音の笑い声に思わず顔を上げると、そこには筋骨隆々の大男が座っていた。


毛皮のマントを肩にかけ、片手には見るからに重そうな斧を置いている。その存在感に、遼は思わず目を奪われた。


「あの人、初めて見かける顔ね。」

近くにいたミリアが、遼に耳打ちする。

「ちょっと様子を見に行ってみてくれる? もしかしたら冒険者かもしれないし。」


遼は頷いて、エプロンを整えながらガレスの前に向かった。

「いらっしゃいませ。今日はどこか遠くから?」


大男はジョッキを置き、遼を見下ろすように視線を向けた後、にやりと笑った。

「ああ、ちょっとした仕事でな。この辺りで噂の『フォレストベア』を討伐しに来たところだ。」


「フォレストベア……?」

遼は聞き慣れない名前に首をかしげた。

「それってどんなモンスターなんですか?」


ガレスは楽しげに語り出した。

「全身を硬い毛で覆われた巨大なクマだ。爪は鉄を砕き、体当たりで岩をも砕く。まあ、そういう危険な奴を倒すのが俺みたいな冒険者の仕事ってわけだ。」


遼はその話に驚きつつも、すぐに目の前の人物への興味が湧いてきた。

「すごいですね……あ、俺、天野遼っていいます。この酒場で料理を作ってるんですけど、よかったら何か注文してください。討伐前にスタミナのつく料理を出せるかもしれません。」


自然に口をついた自己紹介に、ガレスは少し驚いた様子で頷いた。

「天野遼、か。そいつは助かる。何か旨いもんを頼むぜ。」

「はいよ!」


遼は厨房に戻り、手早く材料を準備し始めた。今回選んだのは、精のつく料理としてスタミナを補えるもの。素材の力を引き出すことに心を砕くのが、遼の得意分野だった。


材料


野獣肉(鹿肉に似たもの):300g

ニンニク:2片

ハーブ(ローズマリーに似たもの):適量

野菜(キャロットリーフ、ペッパーベリー):各適量

塩とスパイス:適量

調理

遼はフライパンで肉を焼きつつ、香り立つニンニクとハーブを使って風味を加える。一度火を止め、野菜とともに煮込み、特製のスパイスで仕上げた。


料理をガレスの前に運ぶと、彼はすぐにフォークを手に取り、一口食べた。

「……旨いな。いや、それだけじゃねぇ……不思議な感覚だ。」

ガレスは目を閉じ、言葉を続けた。

「体の奥が軽くなっていく。力が湧いてくるような……まるで、俺自身が強くなったみてぇだ。」


その言葉を聞き、遼はほっと胸をなで下ろした。

「気に入ってもらえてよかったです。討伐に向けて、少しでも力になれたなら何よりです。」


ガレスは満足そうに頷き、再び料理に向き合った。


翌朝、ガレスは森の奥で『フォレストベア』と対峙していた。その巨体が唸り声をあげながら襲いかかってくる。

ガレスは斧を構え、深呼吸を一つした。


「不思議なもんだ……昨日の料理を食った後から、体が軽い。」

ガレスは自分の動きが滑らかになっていることに気づきながら、迫るフォレストベアに向けて一気に斧を振り下ろした。


斧はまるで紙を裂くように、フォレストベアの硬い毛皮を切り裂いた。さらに、素早い動きで体勢を崩したモンスターの懐に入り、連撃を加える。いつもなら疲れるはずの攻撃が、まるで尽きることのない力によって支えられているようだった。


気づけば戦いは終わり、ガレスは森を後にしていた。

「……あの料理、ただの飯じゃねぇな。なんていうか……力が宿ってたみたいだ。」

独りごちながら、ガレスは満足そうに笑った。


その日の夕方、ガレスが討伐の成果を語る声が酒場に響いていた。

「いやぁ、楽勝だったぜ。昨日の料理が効いたのか、体が軽くて力が出たんだ。まるで魔法みたいだった。」

冒険者仲間たちが興味津々に話を聞く中、厨房にいる遼はその話を耳にしていた。


(俺の料理が、そんなに力を与えたのか……? まさか、ただの気のせいってわけでもなさそうだ。)

遼は眉をひそめ、食材のことを思い返してみる。特に注意深く選んだわけではないが、料理を通じて特別な効果が現れるのだとしたら……。


「料理にそんな力が……俺の料理、普通じゃないのか?」

自分でも知らなかった可能性に、遼は胸を高鳴らせながらも、少しの戸惑いを感じていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ