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はじめまして、猫様。  作者: 西藤
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09.救世主

簡素な建屋の中に、金髪女の金切り声が響き渡った。

「出来もしねえ事言ってんじゃねえよ、雑魚がいきがりやがって。

さっさと言う通りにしろってんだよ!!」

罵声と共に、踵でグリグリと女は手の甲を踏みつけてくる。

息が出来ないほどの激痛。

全身からぶわっと冷や汗が噴き出してくるのが分かった。

「……っ、……うぅ……!!」

声を出さないのは僕の意地だった。

我慢する意味が本当にあるのかどうか分からないが、ここで悲鳴を上げたら女に屈する気がしたので、僕は歯を食いしばって痛みに耐えた。

僕の頑固な態度に女が舌打ちをし、もう一度踏みつけようと足を持ち上げた、その時。


不意に、ぽて、という緊張感の無い音がした。

今まで眠りこけていたクロが、寝床にしていたイスから飛び降りたのだ。

はっとその場にいた全員の視線を集めたクロは、何を思ったか、トコトコと僕達の方に向かって歩み寄ってきた。

「お、おい、こいつを早く―」

捕まえろ、と女隊長が口にするより早く、クロはその柔らかい毛並みを彼女の脛にこすりつけた。


「きゃあああああ―――――っ!!!!!」


甲高い悲鳴と共に、女はドタバタと地べたを這いつくばるようにして後ずさった。

今さっきまで権威を振り翳して横暴な態度を振るっていた彼女のリアクションは芸人ばりに滑稽で、呆気に取られた後に思わず顔を歪めて笑い出しそうになる兵士もいた。

「た、隊長、大丈夫ですか」

「…あ、あぁ。何とも…」

ない、と言いかけた彼女は再び耳をつんざくような大絶叫を上げた。

彼女の目の前に、曹長の腕に抱かれた黒い毛玉が現れたからだ。

「隊長どの、よくご覧ください。体躯も小さく、兵卒の手で確保出来るほど力も弱い。ほら、ご遠慮なさらず」

「ぎゃーーーっ!、やっ、やめろっ!!近づけるなっ!!!」 

「お、お前っ!隊長から離れ…うわあぁぁっ!!」

曹長を諫めようとした兵は、彼が守る女隊長と同じように顔面にクロを突き出されると、

悲鳴を上げてその場で腰を抜かしてしまった。

屈強な兵士達は足がすくんでしまったのか、動揺するばかりで何も出来ずに突っ立っている。

「隊長、この生き物の足をご覧ください。何とも細っこくて頼りない。もしも貴方の仰る通りに足を縛り上げれば…ジョン二等兵、どうなると思う?」

「はっ、はい!恐らくは大いに嫌がり、暴れて何とか拘束を解こうとするでしょう。そうすれば彼の骨は簡単に折れてしまいます。そうしたらもう二度と起き上がる事は出来ません。餌も口に出来ず、衰弱して死ぬのを待つのみとなってしまいます」

「という事は、恐らく王宮まで命は持ちませんね、この生き物はよく食事を摂る生き物ですから。そうなれば任務は失敗に終わり、エレン隊長の責任問題となるのではないでしょうか」

クロを腕に抱きながら冷静に語るハリー曹長を、苦虫を嚙み潰したような顔で女は睨んだ。

すると、今まで側で控えていた兵士が口を開いた。

「隊長、ひとまず拘束はせずに運び、様子を見る事に致しましょう。それで本当に何か異変が起きれば、

すぐにこの二人の首を落とせば良い」

「…分かった」

渋々といった様子で部下の提案を受け入れた女隊長は、精一杯の虚勢を張って僕達に出立の準備を促した。


「ありがとうございました、曹長」

「礼ならこいつに言え。お前を助けようとしたんだろう、賢いやつだ」

「ありがとうな、クロ」

曹長の腕に抱かれたままのクロを撫でると、クロは何事も無かったかのように大きく伸びをした。

「そうだ、エレン隊長。この毛布も一緒に檻の中に敷いてやっていいですか?

自分の臭いがついている物があると、落ち着くのですが」

好きにしろ、とまだ顔色の悪い女隊長は吐き捨てるように答えた。

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