49.王子の夢
言い知れない思いを抱えたまま夜を迎えたコンラードは、珍しく夢を見た。
――それはもう、ずっと忘れていた感触だった。
生い茂る緑の草むらを踏みしめ、風をきって走り回る。
どこまでも続くような樹林の間を縫うようにつづく小道を、冒険の旅に出かけた勇者のように息を切らして駆け抜けていく。
きらきら輝く木漏れ日は、宮殿を彩る装飾品の数々よりもずっと眩しく見えて。
…これは遠い昔の、幼かった頃の記憶だ。
振り返れば小道の後方には、今は亡き母の姿が見える。
優しくて、包み込むように愛してくれた母親。
その隣には、昔から厳格で言葉数の少ない父親が、寄り添うように歩いていた。
両親も、その後を歩く人達も、いつもは見ない真っ黒な服を着ている。
それは自分の服も同じだ。こんなに天気が良いのだから、みんなで明るい色の服を着ればいいのに。
ようやく開けた場所にたどり着くと、そこにはいくつもの白くて大きな石が等間隔に並んでいた。
見た事のない光景に驚いた幼いコンラードは制止の声を振り切って、夢中で大きな石の列がどこまで続くのか確かめるように駆け回って遊んでいたが、ふと、ある石の前で足を止めた。
「……これ、」
なぁに?と聞く前に、大きな腕がコンラードの小さな体を抱き上げる。
「ダメだぞ、ここに近づいては」
父とよく似た風貌の老齢の男性が、腕の中のコンラードを優しく窘めた。
それはもう亡くなって長い月日の経った、彼の祖父だ。父とは違って陽気で、やんちゃだった子どもの自分を甘えさせてくれた、大好きな祖父。
「どうして?」
「それは、――――」
****************
「……っ!!」
カーテンから漏れる日の出の柔らかな光に包まれながら、コンラードは目を覚ました。
(…あれは…)
今しがたまで見ていた夢の中の光景をもういちど目蓋の裏に映し出すと、彼は無言のまま、両手で顔を覆った。
――――ああ、そうか。
やっとわかった。そういうことだったのか。
「お目覚めでございますか、殿下。今朝はずいぶんとお早いですね」
目を覚ました王子に気付いた女官のシエルが声をかける。だが、コンラードはまっすぐ天井を見つめたまま、じっと何かを考えている様子だった。
「……殿下?」
やっとシエルの存在に気付いた様子の彼は、真剣なまなざしで言った。
「――王に…会いたい」
「……え…?」
想定外の台詞に思わず目を丸くした女官に、王子は再度伝える。
「王に会って、話をしたい」
「ど、…どうされたのです、急に……」
「父に伝えなければならないことを思い出したんだ。――すまないが、支度を手伝ってくれ」




