表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はじめまして、猫様。  作者: 西藤
4/47

04.くつろぎ


◇第4話 


暖炉に火を入れると、それまでせわしなくあちこち歩き回っていた猫は暖炉のそばで体を丸めて

すぐに眠ってしまった。

あの後に開かれた隊長会議の結果、猫の処遇は軍の上層部の指示に委ねるという事になった。

まだ得体は知れないが、とりあえず狂暴な生き物では無いという事をハリー曹長が強調してくれたようで、感謝しかない。

何故僕が猫という生き物を知っているのかという疑問が向けられた時はさすがに答えに窮したが、小さい頃に住んでいた田舎で似たような生き物を見た事がある、という話をして何とか乗り切った。


そして僕は、指示が下るまで駐屯地の近くにある空き家で猫を監視するという任務を命じられた。

いくら安全と言っても、あれだけ屈強な兵士達を怯えさせた猫を兵舎に置いておくわけにもいかない。

という事で、あまり人目に付きにくいこの粗末な作りの家の中で、僕はしばらく猫と一緒に過ごす事になった。

容赦なく蹴られ続けた体はまだ痛むけど、それでもこうして猫といられるのは幸せ以外の何物でもない。

「お腹空いてんだろう?待ってろ、今ご飯作ってやるからな」

食糧庫から少し分けてもらった鶏肉を、暖炉で沸騰させたお湯の中に入れる。

家の中には埃をかぶった食器類や年季の入ったフライパンのような調理器具などが置いてあったため、とても助かった。猫の食事にぴったりな木製の小皿も見つかった。


ぱち、ぱちと時折音を立てて燃える炎を見つめながら、暖炉の前でくつろいで眠る猫の姿を見ていると、この世界に転生してから辛い思いばかりだった日々が嘘のように感じられる。

目の前の光景がどこか現実離れして見える。こんな心癒される時間が来るなんて、思ってもいなかった。

どこの世界でも猫は救いだ。


部屋に入ってからすぐに泥まみれだった体をタオルで拭いてやったのだが、汚れが落ちると少し茶色みがかった黒の毛並みはとても美しかった。

この猫はまさに自分にとっての招き猫なのかもしれない。


さっき兵舎へ自分の毛布や食糧などを取りに少しだけ戻った時、他の兵士達からやたらと視線を感じた。

それは蔑むようなネガティブなものではなく、自分で言うのもおかしいが、…どこか敬意を感じるような、そんな空気が伝わってきたのだった。

同じ班の先輩兵達に至っては、荷物をまとめている僕に向かって愛想笑いを浮かべながら「気をつけろよ」なんて温かい言葉をかけてくれたりして。

見事なまでの態度の掌返しっぷりには正直呆れたが、まぁ、それも仕方がないだろう。

今まで散々なめていた後輩がいきなり化け物を満面の笑みで可愛がり始めたら、さすがに僕でも態度を変えると思う。


茹で上がった鶏肉を取り出して、猫が食べられるように小さく割く。

熱すぎると食べられないので、ふうふうと息をよく吹きかけた。

「さ、ご飯だよー」

鶏肉が盛られた小皿を床に置いてやると、始めは少し警戒した様子だったがクンクンと匂いを嗅いだ後は美味しそうに食べ始めた。

よっぽどお腹が空いていたのだろう、すごい勢いでがっついている。

僕はその様子を、膝を屈めてじーっと見つめていた。


…幸せ。

改めて、守ってやれて本当に良かったと思う。

顔はちょっとヒリヒリするけど。


全て食べ終えてしまった猫は、催促するように「にゃー」と僕に向かって鳴いた。

そんな声を聞いてしまったらおかわりを用意するしかなくなってしまうだろ!

自分の夕食用に取っておいた分の鶏肉を少し切り分けて再び鍋の湯に入れようとした時、扉を叩く音がした。


慌てて扉を開けると…

そこには、ハリー曹長がいた。


「ど、どうされたんですか、曹長」

「貴様一人で、万が一何かあったら困るだろう。俺も監視役に加わる」


…穏やかな時間は終わりを告げてしまったようだ。

僕は、さっきの先輩兵みたいな愛想笑いを浮かべて彼を部屋に迎え入れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ