23.三匹の猫
日が昇る前に僕は起床すると、僕はとある一室へ向かった。
それは瑠璃花の間といって、名前のとおり壁一面が深い紺色に彩られた、とても美しく気品の漂う部屋だ。以前は王族が客人をもてなす間として使用されていたというのも納得する。
王様の命によって保護される事になった三匹の猫たちは、その部屋で一晩を過ごした。
調度品の数々は念の為に片付けられ、教室二部屋分くらいの広い部屋は今はこざっぱりとしているが、よけいに壁の紺色が引き立って見えた。
「おはよー。ちゃんと眠れたか?」
僕が話しかけると、三匹はにゃーにゃーと挨拶をしてくれた。
クロの他にいる二匹は、名前をハナとソラという。
ハナは白黒のハチワレで甘えん坊。
ソラは灰色のキジトラで、のんびりマイペースな性格だ。
「大丈夫ですよ。三匹ともさっきまでぐっすり眠ってましたから。ハナは少し緊張しているのか、隅に隠れる事が多いのですが」
「そうですか…」
部屋の入口で見張るのは二人の護衛隊の兵士だ。二人ともウイトの街ですっかり猫になれているため、監視役もすんなり引き受けてくれた。
移動が多く、環境が変わるのは猫にとっては大変なストレスになる。
今までは割と元気で神経質な面を見せて来なかった分、僕はハナに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
いや、ハナだけではない。クロもソラも、それぞれにストレスを抱えている筈だ。現にクロは昨日、普段では見せる事のない暴れっぷりを披露したのだ。檻の中に長時間閉じ込められ、遊びたくて仕方がなかったのだろう。この国に現れた猫達を守るためとは言っても、結局は僕の都合で三匹に負担をかけていることには変わりない。檻の隙間から差し入れた指先に額を擦り付けるクロを眺めながら、申し訳なさと悔しさを噛みしめた。
「ソラは今日、送り届けるご予定ですよね?何だか少し、寂しくなりますね」
兵士の言う通り、今日はソラを宰相の邸宅に届ける予定になっている。クロとハナは一緒にじゃれ合うのが大好きなので、この二匹は引き離さず一緒にいさせる事にした。そして、のんびり屋のソラが宰相の元へ送られる事になった。
昨晩の宰相は、僕が何を話してもこめかみに青筋を立て、鬼のような形相でこちらを睨み続けていた。出来るだけ頻繁にソラの様子を見に行こうと思っているが、もしも危害を加えられるような事があったらどうしよう…と心配になってしまう。
「その前に…少しだけ、三匹にしてあげたい事があるのですが」
「してあげたい事?」
怪訝な顔をする兵士の二人に、僕は笑顔で頷いた。
高級な絨毯の上で尻尾を振りながら、身をかがめて僕が揺らす棒に狙いを定める小さな生き物。
「ほらほら、おいで!」
いきおいよく絨毯を蹴ってダッシュしたクロは、棒の先に巻いた布きれに猫パンチを繰り出しながら喜んでじゃれついている。それを見たソラとハナも懸命に揺れる布きれに飛びついて遊び始めた。
「だ…大丈夫でしょうか、ジャン殿…もしバレたら、大変な事に…」
「だから朝早くに来たんです。これでソラが引っ越したら、次に檻から出してあげられるのはいつになるか分からない。出来るだけ、今の内に遊ばせてやりたいんです」
そう言って僕は二人にもおもちゃを渡した。不安そうな彼らだったが、次々に猫達がおもちゃを目掛けて飛びついてくるものだから、すぐに表情を綻ばせた。
「なんだ?抱っこしてほしいの?も~、甘えん坊だなぁ」
「…あっ、コラ!絨毯で爪とぎしちゃダメ!」
遊びたい盛りの小さな子をあやすように、二人は夢中で猫達の相手をしていた。
僕も久しぶりにふわふわの毛並みを腕に抱え、その愛くるしさを存分に堪能する事が出来た。
ここがあばら屋だろうが王宮だろうが、猫の可愛らしさは不変なのだ。
さて、そろそろ日も昇り始めたし、名残惜しいが三匹を再び檻に戻そうとしていたその時。
「失礼致します。朝の清掃に参りま…」
―しまった!!!
突然の来訪者に真っ青になった僕達だが、現れた使用人の青年は、目の前の光景に数秒間フリーズした後にバタリと倒れてしまった。
呆然とする僕達三人の周りで、猫達はゴロゴロと喉を鳴らして遊んでいた。




