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はじめまして、猫様。  作者: 西藤
15/49

15.女隊長の微笑み

捕獲が終わった僕達は、エレン隊長達と合流するために広場へ向かった。

大勢の民衆が不安そうな面持ちではあるものの、混乱する事なくその場で静かに待機している。あれだけ取り乱したエレン隊長だが、滞りなく避難の誘導を進められたようで、実はとても優秀な人なんじゃないかと思った。

「―ジャン!」

僕達を見つけた隊長が駆け寄ってくる。

「捕獲、全て終わりました」

「本当か?!」

「はい、全部で45匹。町の数か所に分かれて捕獲済みで、ハリー曹長の隊にはその監視をお願いしています。まだ隠れている猫もいるかもしれませんが、大方の猫は捕獲出来たと思います」

「そうか、心から礼を言う。……ん?何かお前達、変な匂いがするな」

「あ、さっきまで僕達、セロリまみれだったので……」

「セロリ?」

「えっと、猫の好物なんです。おびき寄せるのに使わせてもらいました」

「……よく分からんが、とにかく上手くいったという事なら、まぁ良い」


エレン隊長は民衆に向かって、朗々とした声で説明を始めた。

「皆、今報告があって、町にいた全ての魔物デモーヌは捕獲が完了した」

おおっ、と歓声が上がる。

「先程も伝えた通り、皆が見たのは魔物デモーヌによく似た生き物で、猫という。見た目は恐ろしいかもしれないが人には無害だ。…と言っても不安は簡単に消えるものではないし、猫達がどうしていきなりこの町に現れたのかも分からない。なので、州候に連絡してしばらくこの町に警備兵を常駐させる事とした。今夜の所は我々が警護に当たるので、皆各々の家に戻って―」

「た、隊長さん!」

俄に、広場の一角から声が上がった。

声を上げたのは中年の商人風の男だった。

「…そ、その…猫とやらは、今日のうちに駆除して頂けるんでしょうか?」

「…え」

エレン隊長は言葉に詰まる。

それを皮切りに、次々と声が上がった。

「そうだ、変なバケモンがいたんじゃ安心して家になんか帰れねえよ!」

「その通りだ!早く魔物を殺してくれ!!」

怒号が広場に響き渡る。

「落ち着いて!今も説明したように、あれは魔物ではなくて…」

隊長の必死に張り上げた声は、膨れ上がった沢山の怒号にかき消されてしまった。

「ー皆さん、静かに!」

「静粛に!落ち着いて話を聞いて下さい!!」

シャロンや他の兵達も人々を宥めようとするものの、一旦火が着いた混乱を抑える事は出来ない。

(どうしよう…どうしたら皆に話を聞いてもらえるんだ…?)

このままでは本当に、捕まえた猫達を処分しなければならなくなってしまう。

どうしたらいいのか考えても答えが出せず、万事休すと思われたその時。


「きゃあっ!!」

最前列にいた町衆の間から、突然悲鳴が上がった。

悲鳴を上げた女性は目の前にいるエレン隊長の更に後方に向かって指をさす。

はっとしてその方向に目を向けると、日が落ちて影を被った狭い小道の奥から、例の丸みを帯びた小さなシルエットが長い尻尾を揺らしてこちらへ向かって歩み寄ってくるのが見えた。


―しまった!

まだ捕獲出来ていない猫がいたのか…!


「う、うわああっ…!!」

「出た…!魔物デモーヌだぁーーっ!!!」


更に混乱する町衆。

もう静止を呼びかける声が意味を成さないのではないかと思えるほどのパニック状態の中、不意にエレン隊長が僕達に背を向けて歩き出した。

「……?」

ゆっくりと進める歩の先には、例の生き物。

「エ、エレン隊長…?」

驚いて制止するシャロンの声にも、彼女は歩みを止める事はない。

さっきまで怒号を上げていた人々も思わず静まり返り、戸惑った表情で歩みを進めるその女性を見つめている。


影から姿を現したのは、茶色の縞模様が美しいトラ猫だった。

エレン隊長は静かに歩み寄ると、何の躊躇もなくひょいっとそのトラ猫を抱き上げた。

小さな悲鳴が上がった広場の方へ向き直った彼女は微笑んでいた。

「大丈夫よ。とっても可愛いわ」

そして、その抱えたトラ猫に頬ずりをしてみせたのだ。

…あの、大の動物嫌いの隊長が。


広場に集まった町衆も、兵士達も、そして僕も、その場にいた全員がその光景を呆然と見つめていた。

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