14.好物
それから、着々と僕達は猫の捕獲を進めていった。
白にキジトラ、黒ぶち、三毛、サビ…
なじみのある猫ばかりで心が和む。異世界でも猫の種類は変わらないみたいだ。
幸いな事に、どの猫もクロのように警戒心がそれほど強くなかったので、順調に捕獲を進める事が出来た。
ところが、5匹目を捕えようとした辺りから、次第にターゲットの猫達は僕達を警戒し始めた。僕が声を掛けても、少し歩み寄ろうとするとぱっと逃げていってしまうのだ。
理由は多分、荷車に乗せて運んでいる先に捕らえた猫達の鳴き声だろう。
皆、出してくれー!と言わんばかりににゃあにゃあと鳴いている。
それは当然だ。自由を満喫していた所を急に捕まえられて、わけのわからないまま木箱なんかに入れられてしまったのだから。
その声を聞き、他の猫は異常を感じて警戒心を強めてしまっているという事だろう。
捕獲のペースが格段に落ちて、僕は焦った。
まだまだあちらにもこちらにも猫がいるっていうのに、これではいつまで時間がかかるか分からない。
荷車は一応少し離れた所には置いてあるが、これ以上離せばせっかく捕まえた猫を木箱に運ぶまでに暴れて逃げられてしまう可能性もある。
どうしたらいいんだ…。
途方に暮れた僕の目に、ふと、路地の上で寝転がる一匹の猫の姿が映った。
路上に散乱している野菜や果物を尻目にのんきに寝転んでいるその姿は、人間の事情など知ったこっちゃないという猫の性格がよく表れている。
何気なくその光景を見ていた僕だが、もう一匹別の猫がやってきて同じように寝転んだのを見て違和感を覚えた。
…何だか、様子がおかしい。
近づいてみると案の定二匹はさっさと逃げてしまったが、二匹が寝転んでいたその場所に転がっていたある物を見つけて、僕ははっとした。
(もしかしたら…)
そういえば猫たちは、寝転んでいたというより体を擦り付けていたようにも見えた。
道の上に落ちていたそれを拾い上げると、僕の頭に一つの作戦が思い浮かんだ。
「…こんなもので、本当に魔物が寄ってくるのですか?」
兵士達が怪しむのも無理はない。
僕らが集めているのは、この世界でもおそらく一般的な食材らしい野菜…セロリだからだ。
以前、何かで読んだことがある。セロリはマタタビに似た効果があるのだと。
さっきの二匹の猫は路上に落ちていたセロリの上でごろごろと体を横たわらせ、擦り付けるような仕草をしていた。
もしこの世界でもセロリに同じ効果があるのなら、使わない手は無い。
僕らは野菜を販売しているいくつかの露店を周り、ありったけのセロリをかき集めた。
そしてセロリを路上にひとまとめにして置いて、周囲を木箱などで囲って即席のケージを作った。
その中に先程捕まえた四匹の猫を入れてみる。
最初は驚いていた猫達だが、すぐに目の前のセロリの山に興味を示し、皆でゴロゴロと体を擦り付け始めた。
「…信じられないけど、本当に喜んでいるように見えますね」
「人間にとってのお酒みたいな物ですから」
「あんな物が、お酒になるんですね…なんだか酔っ払いみたいだ」
兵士達は最初はこわごわとした表情で彼らを見つめていたが、少しずつ慣れてきたようで、4匹のコミカルな仕草や表情に時折笑顔を見せるようになった。
居酒屋から漏れる笑い声が他のお客を呼ぶように、酩酊した猫達の幸せそうな鳴き声は、やがて他の猫達にも確実に届いたようだ。
「…来た!」
待つ事十数分。ほんのわずかに開けたケージの隙間から、一匹の猫が姿を現した。
更に間を置かずに、もう一匹。
その後も次々にケージに猫達が入って来る。居酒屋ののれんをくぐるようにして。
猫達を驚かさないように、静かにガッツポーズをする僕達。
入室した猫達は皆、逃げ出そうともせずにゴロンゴロンとセロリの山の上でじゃれついて遊んでいる。
作戦は大成功だ。
町の反対側で悪戦苦闘していたハリー曹長の隊にもこの事を伝え、そちらでも似たような仕掛けを作ってもらった。どうなる事かと思ったが、セロリのおかげで僕達はとても効率よく町中にいた猫達を回収することができた。




