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はじめまして、猫様。  作者: 西藤
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11.女隊長

馬車が出発して一時間ほど過ぎた頃には、僕らはすっかり打ち解けてしまっていた。

初めて僕達がクロに出会った時の話や、クロの習性、好きな食べ物などの話をシャロンはとても喜んで聞いてくれた。

「シャロンさんは根っからの生き物好きなんですね。皆が貴方のように、猫を怖がらなければ良いのに…」

「ジャン、それはいくらなんでも無理だろう。先ほどのエレン隊長のような反応が普通なのだから。俺だって初めて会った時は本気で斬ろうと思っていたし…」

シャロンは苦笑いをした。

「エレン様は特別、生き物が苦手なんだ。小さい頃からずっと、虫でもなんでも、少しでも触れる事さえ嫌がった。今はごく当たり前に馬に騎乗されているけど、昔は遠くから眺めていても泣き出すくらい怖がっていたんだよ。改めて思い出すと、懐かしいなぁ」

「そうだったんですか…」


ならば、さっきクロに体を擦り付けられた時なんて本当に、シャレにならないくらい怖かっただろう。

僕はそのおかげで助かったけど…。


「そこまで生き物が嫌いなのに、よく克服されましたね」

僕が素直な気持ちを言うと、シャロンは寂しそうに微笑んだ。

「護衛隊の隊長職は代々カーリアン家が継ぐ伝統があるけど、エレン様の父であるハーヴィス様が2年前に急逝されてしまって…長男のバート様はまだ幼かったので、長女のエレン様が就任されたんだ。弟が成長するまでは、何とかして自分が勤め上げると言ってね…。就任が決まってすぐに彼女が取り組んだのが乗馬だった。毎朝僕と一緒に馬房の掃除をしたり、飼葉をやったりしてだんだんと慣れていったんだよ」

「…王室護衛隊のハーヴィス隊長といえば、我々のような末端の兵卒の耳にも届くほどの優れた指揮官とお伺いしておりました。その後を継ぐというのは、想像以上の重圧があるでしょうね」

曹長の言葉に、シャロンはため息を吐く。

「カーリアン家の御令嬢だから、一応教養として一通りの訓練は元々受けてはいたけど…今まで剣もろくに握った事のない女の子には、はっきり言って荷が重すぎると思う。それでも彼女なりに努力して、今は出来る事を少しずつ増やしていっているんだけどね」


まだ手の甲はズキズキする。薬を塗ってもらったけど、腫れは引く気配がない。

それでも、彼女の横暴な振る舞いの裏に隠れた事情を知ってしまうと、理不尽な目に遭った憤りが少しずつ収まっていくのを感じた。


「エレン様が隊長職を引き受けなかったら、次に継いでいたのはハーヴィス様の兄弟だった。一度隊長職が他の親族に渡れば、エレン様の弟が継ぐのはだいぶ先…状況次第では永久に継ぐことが無い可能性もある。エレン様はそれを恐れて半ば強引に就任されたけど、親戚筋は彼女が何かやらかして失墜するのを今か今かと待っている。一度の失敗も許されない状況が過大なプレッシャーになって、エレン様は日に日に周囲に対して厳しい言葉が増えて高圧的になっていった。ナメられたくないって思いもあったんだと思うけど、彼女はもう…元の優しい性格が思い出せなくなるくらい、別人になってしまったんだ」


青年はそう言ったきり、沈黙してしまった。

さっきまであんなにはしゃいでクロと遊んでいた彼が深く項垂れているのを見ると、僕の方まで胸が痛くなる。彼の言う通り、元は良い人なんだろう。

僕は包帯の巻かれた手の甲を、やるせない気持ちで見つめた。


ーその時突然、馬車が止まった。

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