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6. 魔物

山を降りてすぐにある小さな村には左目に傷をつけた巨大なオークをリーダーとして何匹も集まっている。

その中の一匹は逃げていた少女の腕を掴んで舌なめずりをしていた。


食べられる!


そう目を閉じた彼女だったが、いつまで経っても痛みがやってこない。

恐る恐る見てみるとオークは既に絶命しており、ヴィルヘルムが立っていた。

その姿に顔を真っ赤に染めてうつむいてしまう。

今回のような反応は彼女だけではなく、口は悪いが強い上に容姿端麗なこともあり女性からモテるのだ。

それはヴィルヘルムだけではなく、グレッグにも言えることで、ファンのような存在がいるらしい。

頭領の前ではお調子者でビビリという印象が強いが、彼と常にともにするだけあって腕っぷしは強く、筋骨隆々とまでは行かないがその身体のしなやかさを武器に軽い身のこなしで次々と薙ぎ払っていった。

そんな彼らを影から見守っていると後ろに感じる違和感。

ゾクリと背筋が凍るような感覚に振り返るのを躊躇するが、ぽたりと落ちてきた何かに視線を上げると緑色の身体をした巨大な何かが歪な笑みを浮かべてこちらを見ている。

オークの時とは比べ物にならない殺気に直ぐに死を連想させられた。

腕を掴まれ、皮膚に爪が食い込む痛みで声が出そうになったが今ここで声を出せばオークと戦う彼らが気付き、手を止めるだろう。

ただでさえこの前の行動で迷惑を掛けたばかりだ。

人質になって迷惑を掛けるなんて真っ平だと小刀を掴まれていた腕に刺してやれば痛みで手が離れた。

まだ足の傷は塞がり切っていないが、緊急事態だと我慢して走り出せば怒りに染まった顔で追いかけてくるのが見える。

土地勘は無いけれど村に逃げるわけには行かないと反対方向に走り出してみたが、木の根や枝がそこら中にあるため身体に細かい傷を作っていく。

どれくらい走ったのだろうか。

もうこれ以上走れないと酸素を求める肺を無視してここまで来たが、傷口が開いたことで出血する足はもう動かないと訴えてくる。

目の前に見えた大きな岩。

行先を遮られ、逃げ道がないようだ。

ここまでくれば大丈夫かとやっと足を止めた。

緑色の怪物と少し離れていたとはいえ、すぐに追いついてきている。

怒りに染まったまま棍棒を振り上げる姿に死を受け入れ、逆らうことなく目を閉じた。


「ロザンナは本当に危なっかしいね。」


この状況に似つかわしくない優しい声に目を開けると、ギルバートが怪物と彼女の間に立っているのが見える。

片手で棍棒を余裕で受け止めているのは見間違いじゃないだろう。


「ギルバート、さん?」


「すぐに終わるから座ってていいよ。その足じゃもう動けないだろう。」


振り返ってそう言った彼の顔面に怪物の左拳が近づいてくるのが見えた。


「危ないっ!」


ついそう叫んでしまったが、拳は当たることなくギルバートの左手が怪物の腹を貫通していた。

絶命したそれには興味がないと汚いものにでも触れたように持っていた消毒液で手を洗うとこちらに向かって歩いてくる。


「…どういう…。」


「ん?もしかして僕は戦えない要因だと思ってたのかな?これでも一応頭領の次くらいには強いつもりだけど。」


満面の笑みでそう言いながらロザンナの足の手当てをしていく。

無理しすぎたせいか。

強い痛みにギュッとワンピースの裾を掴んで耐えていると後ろから抱き込まれた。


「頭領、早かったね。」


「お前が殺ったのか。」


「彼女を追い掛け回してたからさ。この辺りにゴブリンが出るなんて珍しい。」


「オークの臭いに連れられてきたんだろ。」


「怪我人は?」


「ザコだったからな。村の奴らくらいなんじゃねえか。それより、お前。何で助け求めなかった。」


「?」


「あ゛?俺が気付いてねえとでも思ったか。」


「気付いてたの…?」


「ッチ。ギルバートが居なかったら死んでたんだぞ!」


「知ってる。」


「んだと!」


「これ以上迷惑掛けたくなかった。」


「迷惑掛けたくねえから死ぬのか。」


「…私が生きてて誰か得するの。」


「俺がする。」


ガリッと首筋を噛まれ少し痛んだが足の怪我ほどじゃないと思っていると急激に感じる眠気。

先程まで一切感じていなかっただけに意味がわからないと視線を彷徨わせてみるが無駄な抵抗で逆らうことの出来ないまま眠りに落ちていく。


「頭領、あまり彼女を責めないようにね。」


「あ゛?」


「実の両親に殺しの依頼をされるなんて普通の令嬢ならありえないだろう。セルモンティ伯爵には他にも二人令嬢が居たはず。彼女だけだと考えると可哀想なものだね。」


「…知るか、ンなもん。」


「本当に良いの?優しくしないとそのうち彼女は一人で命を落とすよ。僕やグレッグが居ても常に助けられるわけじゃない。」


「…。」


腕の中で眠るロザンナを見ながら大きな溜め息を零した。

俺の嫁になって大人しく飼われていればそれなりにいい暮らしをさせてやれるというのに何故無茶をするのだろうか。

考えても無駄かと諦め、彼女を抱きかかえると家を目指して歩き始めれば、ギルバートはそれ以上何も言わず後ろに続くのだった。

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