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2. 優しさ

あれから数時間が経ち、やっと目を覚ましたロザンナの目の前には大量の南国フルーツが置かれており、何これ?と驚く彼女にクスクスと笑い声が聞こえてくる。


「頭領が採ってきたんだよ。」


「なんで果物?」


「僕が助言をね。貧血には葉酸を含む果物なんかがいいからさ。でもまさか、こんなにたくさん採って…っあはは。」


「…ギルバート、ちょっと来いや。」


般若のような顔をした頭領が暖簾から顔を出し、彼を外へと連れだしていった。

あの二人はとても仲がいいようだ。

どういうつもりかはわからないが、わざわざ採ってきてくれたものを無下にする必要はないと大好物のマンゴーを手にする。

勝手にナイフを使っていいか迷ったが、一緒に添えてあるということはそういうことだろう。


「…え、何これ!すごく美味しい。屋敷じゃ果物なんてほとんど出なかったし…。どうしよう、食べるの勿体なくなってきた…。」


あまりの美味しさに一人で歓喜していると戻ってきた二人が彼女の姿を目にしたようだ。


「頭領、よかったね。すごく喜んでいるみたいだよ。」


「…。」


「笑ってる姿は初めて見たけど、とても可愛らしいね。頭領が要らないなら僕が貰い受けてもいいよ。」


楽し気にそういったギルバートは幸せそうに笑みを浮かべるロザンナに近づいていく。

その姿をしばらく眺めていたが、拳を握りこんでから踵を返そうと身体を動かした。


「あの!」


「っ。」


「果物、ありがとう!マンゴーの美味しさに感動した…。」


「…そうか。」


彼女のその言葉を聞いただけで握っていた拳が自然とほどけていくのを感じる。

それに気付いてありえないと振り払うように首を何度か振ってから出て行っていった。

あれから元気を取り戻したロザンナはドレス姿は煩わしいとミディ丈ワンピースに着替え、炊事場の手伝いを始めたようだ。

初めこそ、先に始めていたアイヴィーに止められていたが、彼女以上の料理の腕を持っていたことでそれ以上何も言えなかった。


「ロザンナ様は何故これほどの腕をお持ちなのですか?」


「アイヴィーさんは私の境遇をどこまで知ってるの?」


「…ほとんど何も。」


申し訳なさそうに言う彼女だったが私としては好都合だ。

軟禁状態だったとはいえ、流石に家事はメイド達が担当していたため本来なら彼女ができるはずもない。

だが、今のロザンナは転生する前の社会人経験を持っており、趣味が料理作りだったことも功を奏している。

頭領から貰った果物を日持ちさせるためにドライフルーツやジャムへと加工していると大きめな窓から彼の顔が見えた。

高い位置にあっても彼にとっては問題ないようだ。


「…何だそれ。」


「果物は常温じゃ日持ちしないからね。ある程度は日持ちするように加工して、残りは川で冷やしておこうと思って。」


「…何故川があることを知っている。」


「さっきグレッグから聞いて見に行ってきた。」


「勝手な行動してんじゃねえ!!」


いきなり怒鳴られたことでアイヴィーはあまりの迫力に泣き出してしまった。

これが通常の女性の反応だ。

しかし、これくらいなら会社の上司のほうが怖かったと小さくため息を零しながらすっと瞳を細める。


「しばらくついて行くとは言ったけど、貴方の全てに従うつもりなんて一切ないよ。」


「あ゛?」


「先に言っとくと私に凄んでも無駄。」


相手するのも面倒だと籠いっぱいの果物を抱えて先ほど見つけた川へと歩き出した。

後ろに感じる足音が煩わしく、振り返ると不機嫌を露わにした頭領が付いてきている。

嫌なら放っておけばいいのにと思うが、彼にとってはそれはできない相談だった。

集落の周りはある程度危険な魔物は狩っているとはいえ、この辺りにはオークが住んでいるというのに本当に危機感のない女だと余計イライラする。

迷うことなく川に向かうと腰にあった紐を籠につけてそっと川に入れようと歩き出した。

川辺の草は滑りやすいと忠告しようとした矢先、足を滑らせた彼女の姿が見え、川に落ちる直前に引き上げると少し驚いた表情をしていたが、ありがとうと顔を綻ばせる。


「っ。」


「もう放してくれても大丈夫だけど。」


「ここに居ろ。俺がやる。」


無理矢理籠を奪い取ると水に濡れることも厭わず、川へと入っていった。

紐を岩に括り付けると果物が落ちないように位置を整えてからついでに持っていたナイフで川魚を数匹捕まえるとゆっくり戻ってくる。


「すごい。ナイフ一つでお魚捕まえられちゃうんだ…。」


「山育ちなら誰でも出来る。」


「頭領はこの辺りの出身なの?」


「ヴィルヘルムだ。」


「ヴィルヘルムさん?」


「さんは柄じゃねえ。ヴィルでいい。」


「ヴィルね。頭領なのに私なんかにいつまでも付き合ってていいの。皆が心配するんじゃない?」


「心配するわけねえだろ。俺を含め自分の身は自分で守れる奴らばかりだからな。」


「確かに集落には男性しかいないよね。」


「…帝国の奴らに殺された。」


「え…。」


「俺がガキの頃の話だがな。それから女は入れない掟だ。」


「じゃあ私とアイヴィーって掟破りの存在ってこと?1か月くらいは様子見ようと思ってたけど、もう少し早く出ていったほうがいいね。」


「…お前たちの場合は例外だ。皆納得してる。」


「でも早く出ていくことに越したことないでしょ。」


「うるせえ。しばらくは集落にいろ。」


ヴィルヘルムはそういうと歩き始めた。

ついていこうか迷ったがドライフルーツとジャム作りは終わったのだから直ぐに戻る必要もないだろうとパンプスを脱いで川に足を入れる。

少し太陽が傾いてきたとはいえ、まだまだ暑いこの時間は身体がべた付いて不快感しかないが、足を冷やすだけで幾分ましになった。


「お前な…。」


「何?」


「今の流れでついてこねえのかよ。」


「夕飯作るにはまだ早いし、集落に戻ると暑いからさ。しばらくここにいるつもり。」


「…はあ。」


大きなため息を吐かれたかと思うといきなり感じた浮遊感。

彼に抱き上げられたのだと気付くと不安定な体制にヴィルヘルムの服を掴めば、先ほどまでの不機嫌な表情が少し収まったようだ。

器用にパンプスを持つと集落に向かって歩き始めるのだった。

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