10. 寝床
狼族である彼らに大切にされている自覚はある。
あるのだが、流石にこの状況は困ったと溜め息をこぼした。
「頭領ばっかりズルいっすよ!」
事の発端は冬支度のために私専用の家で寝ていた狼達を頭領が追い出したことだった。
寒さに強い彼等にとっては窓や扉が開いていたところで気にすることではないのだが、去年の冬。
それが原因で風邪を引いた私は高熱で2週間ほど寝込んでしまったのだ。
ギルによって適切な薬を処方されているため、長引くことはなかったが、ヴィルの過保護魂に火をつけてしまったらしい。
「煩えな。てめえらが床で寝るには狭ぇだろうが。」
「だからって頭領だけロザンナさんの家で寝るのは絶対に不公平っす!俺の嫁さんでもあるんっすからね!!」
「そうだそうだ!」
「俺の嫁でもあるんだぞ!」
「ギルバートは許したのかよ!?」
「僕?僕の寝室は元よりロザンナと一緒だから許すもなにもないよ。毎日一緒に寝起きしてる。知ってるかな。寝起きのロザンナはいつも以上に可愛いんだよ。」
ニコニコと笑みを浮かべながら爆弾発言をするギルに皆額に青筋が浮き、唸り始めたがそれを華麗にスルーしている。
流石、群れNo.2だ。
家を広く作り直すという話もあったが、ヴィルが即座に却下したため頓挫してしまった。
理由は自分以外が一緒の空間にいるのが鬱陶しいということらしいが大ブーイングの嵐だったのは言うまでもない。
結局ヴィルの咆哮によって皆、渋々狩りへと出掛けていった。
これまでの過程に私への実害はなく、頭領らしいと諦めるだけに終わったが、寝る準備を終えてベッドに向かう扉を開けたことに早速後悔する。
これは狼の絨毯だろうか。
本来なら喧嘩になりそうなものなのに同じ部屋で寝たいという欲求の方がお互い重なり合うよりも上回ったようで、すし詰め状態だ。
私のベッドはちゃんと確保されているけれど、天井につけられたハンモックや壁にある棚にまで狼で溢れていて室内は相当な熱を持っている。
「これ、どういうこと?」
「頭領とギルバートの兄貴が悪いんす。ロザンナさんは俺の事好きっすか…?」
不安げに瞳を揺らしたままそう聞くグレッグにベッドで早く来いと手招きしている二人を見て溜め息を零した。
きっと何か言ったのだろう。
「そんなに不安そうな顔しなくてもグレッグのこともちゃんと好きだよ。」
「ほんとっすか…!?」
「私、嘘ついたことあったかな。」
「ないっす!!…今日は俺と一緒に寝てくれないっすか…?いつも頭領とギルバートの兄貴…ばっかだし…。」
「うん、いいよ。」
その言葉にいきなり抱き上げられるとハンモックの一つに飛び乗りそのまま眠る体制だ。
筋肉質で狼たちの体重を支えているのだから丈夫なのだろうが、ハンモックで寝た経験がないため少し不安ではある。
ただグレッグによって抱き込まれているため問題はなさそうだと獣化したふわふわの毛に顔を埋めながら目を閉じた、はずだった。
両側から感じる毛はグレッグのより少し硬いが触り心地は変わらず気持ちがいい。
朝方なのか。
気温が下がり少し肌寒いと暖を求めるように擦り寄ると髪に感じたふっくらとした感触と耳元に小さな寝息が聞こえてくる。
ゆっくり目を開けると見える銀髪と黒髪に首を傾げた。
グレッグとハンモックで寝たような…?
辺りを見渡してみると真上にあるハンモックから恨めしそうに唸っているグレッグの姿があり、無理矢理奪われたのだろう。
「グレッグ…大丈夫?」
「…。」
「こっち、おいで。」
両側からホールドされているものの上は空いているため手を伸ばすとおずおずとハンモックから降りてきた。
重たくないように大きな身体を上手く丸め、頭が撫でられる位置に収まっている。
毛並みに沿って優しく撫でていくと気持ち良さそうに目を細め、先程までの怒りは収まったようだ。
暫くすると胸の上に頭を預け寝息を立て始め、やっと眠りについてくれたらしい。
良かったと安堵の息を吐きながら、彼らの暴走をどう止めようかと思案するのだった。




