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死への旅路

「彼はね。イケメンで性格良し。運動神経も抜群なの。これってさ。好きになるなってのが無理な話じゃない?」


 不特定多数の誰かと情事を終えてきた少女は、コタツに入りながら喜々として想い人の事を語り始める。


 少女の恋は一年前に遡る。相手は同じ高校の同級生。彼とはクラスは違ったが、同じ美化委員で顔を合わす内によく話すようになったと言う。


 少女はたちまち彼に恋したが、当時彼には恋人が存在し、しかも在学中に特例でカナダ留学に行くことになった。


 少女は彼を追いかける為に自分もカナダに留学する事を決意した。それは、少女にとってごく自然な

行動であり、周囲の奇異な視線など歯牙にもかけなかったと言う。


 少女が現役の学生だったと事に驚いた俺に、幾つもの疑問が溢れ出てきた。彼女は今も通学しているのか? 


「当たり前でしょう。成績落ちたら留学なんて出来ないもの」


 つまり少女は高校を下校した後に売春行為を続け留学の資金を貯めているらしい。何故親に頼らないのか? そもそも家に帰らないのはどう言う理由なのか?


「両親とは破滅的に仲が悪いの。帰らないのは顔も見たくないからよ。留学費用をお願いするなんて考えただけでも吐き気がするわ」


 少女はスマホをテーブルに乱暴に置き、苦々しい表情で文字通りそう吐き捨てた。


「私には姉がいてね。着替とか必要な物は持ってきて貰ってるの」


 少女はそう言いながらまたスマホをいじり出す。俺は何か肝心な事を失念しているような気がしていた。その事が頭に浮かんだ時、思わず俺は声が上ずってしまった。


「君の想い人には恋人がいるんだう? それでもカナダまで追いかけて行くのか?」


「彼が留学する時に別れたらしいわ。彼の事だから留学先でも新しい彼女がいるでしょうね」


 少女は器用に片手でスマホを操作しながら、まるで他人事のように飄々と話す。仮に首尾よく資金が貯まり留学出来たとしても。


 彼が少女の想いを受け入れる保証など何処にも無い。しかも少女がその場で失恋した時。それは彼女が命を落とす時だ。


「かまわないわ。彼に振られて死のうともね。私は彼に告白する事が目的であり全てなの。売春も留学も失恋で死ぬ事も。それらは過程であって私にとってはささいな事よ」


 スマホの液晶画面から目を逸らさないまま少女はそう言い切った。死を恐れて人との関わりを避けてきた自分。


 一方で、己の想いを伝える為には命すら道端に捨てる事を厭わない少女。それは余りに対照的で、到底理解が及ばない精神世界だった。


『純粋』


 何処かの政治政党の演説車両が騒音を撒き散らせて外を通り過ぎて行く中で、俺の頭の中には何故かその言葉が一瞬現れすぐに消えた。


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