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甘い声

 一晩の筈の宿の提供は、何故かその後も続いた。少女は泊まりの客を取れなかった時、俺のアパートにやって来た。


 本来なら俺は彼女を門前払いにするべきだった。だが、少女は狡猾にも自分の死の運命に関する情報を小出しにして俺の部屋に泊まる理由にしてきた。


 自分の死の運命を知る者。俺は少女が自分と同じ境遇に置かれる者だと感じた。だが、少女が話す八重歯の神様など俺は会った記憶が無かった。


 この時点で少女は自分とは違うと半ば判断したが、彼女の来訪を強く拒絶出来なかった。俺は少女が嘘を言っているとは思えなかったからだ。


「ねえお兄さん。宿代代わりにエッチしてもいいよ。流石にこんな話だけで泊まるには気が引けるからさ」


 少女はセーターを脱ぎ黒いタンクトップ姿で俺の隣に寄ってくる。豊かな胸の谷間を見せつけると同時に、それを俺の腕押し付けてくる。


 その柔らかい感触に、俺の下半身は健康的に反応する。だが、理性を強く意識して少女から離れる。


「正直性欲はあるけど止めとくよ。君は気分を害するかもしれないけど病気が恐い」


 少女は一瞬だけ両目を細め、黙々と脱いだセーターを再び着始める。


「まあ正解かもね。売春してる女なんて嫌よね」


 少女はコタツに入りながら寝転び、スマホをいじり始める。


「お兄さんはさ。恋をしたら死ぬって知っているのよね? じゃあ今まで女と付き合った事はないの?」


 少女はスマホの液晶画面から視線を逸らさず、ぞんざいな口調で質問してきた。


「無いよ。これでも死にたくないからな。異性との出会いに関する事は全て避けて生きてきた」


 物心ついた頃から運命を知った俺は、子供なりに全知全能を振り絞りその運命の回避を図った。学校は中学、高校と男子校を選び、交友関係も最小限に抑えた。


 俺を知る者は、俺の事を無口で付き合いの悪い奴と評価していた事だろう。俺はそんな役柄を演じていたつもりだったが、案外元の性格もそうなのかもしれないと考える時があった。


 人との繋がりは出会いに繋がる。俺は人生に於いて重要なその繋がりを避けてこれまで生きてきた。後悔が無いと言えば嘘であり、孤独な人生だった。


 だが命には変えられなかった。専門学校でPCスキルを学び、パソコンを使い自宅で出来る仕事をこなし日々を過ごす。それが俺の人生だ。


「寂しくないの? お兄さん」


 突然背後から聞こえた少女の声に、俺は我に返った。少女は俺の背中に抱きつき、両手を俺の下腹部に伸ばしていた。


「······口だけだったら病気の心配は無いわ。私がお兄さんを慰めてあげる」


 それは小さく甘い声だった。男の欲望を刺激する技術を熟知した手練の女。この時の少女は俺にとって正にそんな存在だった。


 俺は心の何処かでこうなる事を期待して彼女を部屋に入れたのか。自分に疑念すら持ち始めた俺を嘲笑うかのように、彼女は信じられないような早さで俺のズボンを脱がし、俺のそれを口に咥えていった。

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