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うち明け話

 知り合いと言うには希薄過ぎる関係。名も知らずただ顔を見知っているだけ。売春する少女とその客になり損ねた俺は、駅前のカフェで会話を重ねるようになっていた。


「あーあ。今年もあと数日で終わりかあ。正月なんて無きゃいいのよ」


 少女は相変わらずアイスジンジャエールを飲みながら、その不機嫌さを隠そうともしなかった。少女によると年末年始は客の反応が鈍いらしい。


 師走は誰もが慌ただしく過ごす。つまり少女にとっては商売上がったりの時期らしい。


「私、住む家が無いからさ。泊まりがオッケーの客じゃないと困るのよね」


 少女は思わせぶりな笑みを浮かべ俺を見る。生憎俺は少女と夜を過ごすつもりが無かったので、黙して首を横に振る。


「チッ。お兄さん堅いのね。いたいけな美少女に一晩のベットを提供する優しさは無いの?」


「俺は敷き布団派だ。それより君は前に言っていたのはどう言う意味だ? 恋をしたら死ぬ病気って?」


「そんな事言ったけ? あ、そうそう。私、白血病と緑内障と動脈硬化と高血圧を抱えているの。可哀想でしょう?」


「ああ。同情心で涙が溢れそうだ」


 意味を成さない会話を打ち切る為に、俺は席を立とうとした。そして、隣に座る美少女の顔をもう一度見る。


「······君は冗談でも俺の方は本当なんだ。俺は恋をしたらその日に死ぬ。そう決まっているんだ」


 親にも明かした事の無い俺の秘密を、何故こんな会って間もない少女に話してしまうのか。俺は自分でもその理由が分からなかった。


 どうでもいい相手だからこそ話せる。俺は咄嗟にそう自分を納得させようとしていた。


「私だって本当よ。私は失恋したら死ぬの。お兄さんと同じくその日にね」


 少女は長いつけまつ毛の下の瞳に、反抗的な色を含ませ言い切った。共感するには理由が余りにも足りなかった。


 分かり合うには絶望的に信頼関係が無かった。それでも俺は浮かした腰を再び椅子に戻した。


「······俺はそれを物心ついた頃から知っていた。君はいつからそれを知った?」


 俺は身体を少女に向け、真剣な顔付きで問いかけた。自分と同じような運命を自覚する人間が他にも存在するのか。俺の興味はその一点に尽きた。


「一年前よ。この商売をちょうど始めた頃かな」


 少女はそう言うと、バイブ音を発するスマホを片手に誰かと通話を始めた。足を組みながら楽しげに誰かと話す少女を眺めながら、早く通話が終わることを願っている自分に暫く気付かなかった。


 

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