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質屋・籠の備忘録  作者: 甲乙イロハ
黒電話
8/82

8

 居合わせた誰もがそれぞれに驚き、カウンターの上で鳴り続ける黒電話を見つめる。


「な、なんだ? なんで急に鳴ったんだ?」


 桃井の言葉に、子分たちもうなずく。


「そ、そんなはずない」


 和夫が指差したのは、黒電話から伸びたコードだった。銅線むき出しのその先端は、だらん、と宙に垂れ下がっている。それに気付いた美枝子は、


「ひっ」


 悲鳴をあげた。


「なんなの? なんなの、これ? 線が繋がってないのに、どうして鳴るの!?」


 半ばパニックになりながら言った。


「い、いや。そもそも電気さえ通ってないんだ。……鳴ること自体が、お、おかしいんだ」


 和夫はおののきつつ、震える美枝子の肩を抱き寄せた。訳が分からず硬直する大人たちを尻目に、


「お電話ですよ」


 キビキは平然と、鳴り続ける黒電話を両手で大切そうに持ち上げ、


「どうぞ」


「えっ……?」


 戸惑う和夫の前に差し出した。


「てめえら、何の真似だ!」


 桃井が声を荒げる。


「さっきから、なんの手品だ? ふざけたことしてやがると……」


「どうするの、だわさ」


 桃井の耳元でブレイシルドがささやいた。


「……っ!」


 悲鳴こそあげなかったものの、桃井は思わず後ずさってしまった。


「こ、この女っ……!」


 子分たちの前で見せた失態。それを隠そうと殊更に怒声を上げてみて、驚いた。子分の二人は床に倒れ、口から泡を噴いている。それを無言で見下ろすブレイシルドは、自分の手刀を見つめ、


「ごめん、ちょっと力入れすぎただわさ。……死んでたら、ごめんだわさ」


 悪戯っぽく舌を出した。


「てめえっ! 調子に乗ってんじゃねえぞっ!」


 雄叫びをあげた桃井がブレイシルドに摑みかかる。首元をねじ上げようとして、驚く。びくともしない。怪力自慢のプライドに火がつき、さらに力を込めた、が。


「んしょっ、だわさ」


 逆に桃井の襟首をつかんだブレイシルドが、小柄ではあるものの筋肉質で重い桃井の体を、片手一本で宙に浮かせた。驚きのあまり声も出ない桃井の首筋に、


「ていっ、だわさ」


 ブレイシルドが空いた手で軽く手刀を振り下ろす。そのたった一撃で、桃井は子分たち同様、泡を噴いて卒倒した。


「おつかれさまでした。ブレイシルド」


「お易い御用。易すぎて準備運動にもならないだわさ」


 その言葉通り、ブレイシルドは呼吸一つ乱さず、乱れた襟元を直している。


「……さて」


 何事もなかったかのように、キビキは言う。


「それでは、田中様。外野がいなくなったところで……どうぞ」


「へ?」


 呆然と問い返す和夫に、


「お電話です。あなたに」


 キビキは再び言った。和夫はごくりと喉を鳴らしつつ、キビキが持つ黒電話の受話器を取り上げた。

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