7
「お取り込み中、恐れ入りますが」
猛る桃井を見上げ、キビキは言った。
「田中様はまだ、お品を手放す決意をされておられません。ですよね?」
妻に寄り添われた和夫は、震えながら、しかし何度もうなずいた。
「このままでは、当店はお品の所有権を得ることができません」
「いいんだよ。もう話はついたんだ。そのガラクタはおめえのもんだ。良かったな」
「そういうわけには参りません」
「ちっ……うるせえな。大人の話にガキが口を挟むんじゃねえよ。あっち行って、なんかオモチャででも遊んでろ」
ひらひらと手を振る桃井に「しかし」と食い下がるキビキ。
「この世に存在するお品は全て、生きている所有者の気持ちが残っていては、完全に当店のものにはならないのです。ですから……」
「ごちゃごちゃうるせえぞ、小僧っ!」
叫んだ龍が壁に貼られたレトロなポスターをはぎ取り、ばりばりと破って、捨てた。ビール片手に水着で笑う往年の人気アイドルがしわくちゃだ。それを見下ろすキビキの眉がぴくりと引き攣る。
「ガキだからって手出ししねえと思うな! 調子に乗ってんじゃねえぞっ!」
虎に蹴られたラジカセが壊れ、部品をまき散らす。それを横目にしたキビキは、
「やれやれ……」
まぶたを閉じ、軽く頭を振った。ぱん、ぱん、と柏手を打つ。と、
「……人間ごときがこの店で暴れるとは、いい度胸だわさ」
店の奥から、甲冑を着た女が現れた。先日、和夫に紅茶を出した時と違い、羽飾り付きの兜をかぶっている。面頬の隙間で不敵な笑みを浮かべる女を見て、桃井と子分たちは声を上げて笑った。
「なんだ、どんな強面の用心棒が出てくるかと思えば……逆に驚いちまったぜ」
「アメリカ人か? フランス? ああ、最近多いロシア人か?」
「服はずいぶん変わった趣味だが、なかなか別嬪さんじゃねえか」
にやにやする三人を女は指差し、
「キビキ。こいつらどう見ても英雄じゃなさそうだし、ぶち殺していいだわさ?」
女の言葉に、怒るより呆気にとられる桃井たちを無視して、
「だめです。あと、できるだけ汚さないようにお願いしますよ。大切な品物が血やら何やらで汚れたらたいへんですから」
釘をさすキビキに、女は肩をすくめる。
「それは難しいだわさ。人間はすぐ壊れるし……」
「壊すだけなら、カイライにやらせますよ。ブレイシルド、あなたに命じた意味を考えてください」
「あー。はいはい、だわさ」
ブレイシルドは頭を左右に振り、こき、こき、と骨を鳴らした。さらに二の腕を引き寄せるようにして肩を伸ばすと、屈強な男三人に向かって、にっこり微笑んだ。
「で、誰からやる?」
ブレイシルドの挑発に、男たちも流石に気色ばんだ、その時。
黒電話が、激しく鳴った。