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「ただいまだわさ」
ドアに掛けられた鈴が鳴る。
「お帰りなさい。首尾はどうでしたか?」
ブレイシルドは空になったリュックをカウンターに置き、
「お供えは喜んで食い散らかしてたけど、とにかく、めちゃくちゃ怒ってただわさ」
「ほう」
キビキは窓の向こうの、崩れた大宍山を眺め、
「怒りで我を忘れて、という訳でもなさそうですが」
「そうなんだわさ。怒ってはいるけど、長い間見守ってきた者たちを、いまさら見捨てることもできないから。やれるところまでやってみるって……」
「この国の神らしい言葉ですね」
「そうなんだわさ。ただ、町の者に社を壊されて、最後の力も失われたから、そう長くは保たないって言ってだわさ。たぶん、力尽きたんだわさ」
「そうですか。それで、協力は仰げそうですか?」
「分からないけど、お土産は喜んでくれただわさ。特に筍は好物らしくって。ここで用無しになったら、とりあえず顔を出しに行くって約束してくれただわさ。もちろん、また力を蓄えてからだけど、って」
「それは朗報ですね。神々の助力は多いに越したことはありません」
「でも、ちょっと暴れ足りないだわさ」
「機会はすぐに訪れます。ここに居れば、望もうと、望むまいと」
「楽しみにしてるだわさ。あ、そうだ」
「なんでしょう? ……嬉しそうですね」
「売れたんだわさ? あの縄」
「縄?」
「ほら、壁に掛けてた。犬用のやつだわさ」
「いのちの手綱のことですね」
「そうそう、それだわさ」
「とても良い品でしたから……寂しいですね」
「店から品物が減るのはいいことだわさ」
キビキは肩をすくめた。
「思い出は、美しく、誇らしく、楽しいものだけではありません。時に悲しく、苦く、辛いもの」
「どっちかって言うと、そっちの方が多いだわさ」
「まさに」
うなずくキビキ。
「受け止めきれないほど辛い思い出なら、逃げることだけが救い。逃げ続ければ良いのです。いつか来る、受け止められるその時まで」
「なに? 新しく思い出のお預りサービスでも始めるつもりだわさ?」
機嫌よく軽口を叩くブレイシルド。
「そんなつもりは毛頭ありません」
キビキは薄笑みを浮かべた。
「当店はただの質屋ですから」




