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「ご苦労様ですっ!」
鉄扉を開けて部屋へ入ってきたのは、二人の若い男だった。そろって金髪リーゼントにスカジャン。龍の刺繍を施した青と、虎の刺繍を施した赤。
「おお、隆一に、寅泰。ま、座れや」
「失礼しますっ!」
二人は不自然なほど硬直する教頭の前を他意なく通り過ぎ、入ってすぐ右手、応接室のソファに座った。
「聞いてるぜ、おまえらの噂は」
桃井は笑顔で言った。
「冷酷無比な氷の青龍と、暴れ出したら止まらねえ炎の赤虎。でけえ族でも、おめえらには道を開けるって言うじゃねえか」
「ありがとうございますっ!」
寅泰が満面の笑みで礼を言う隣で、
「おかげさまで、跳ね返らせていただいてます」
隆一が深々と頭をさげた。満足げにうなずく桃井。
「おめえらになら、任せられそうだな」
桃井の言葉に、顔を見合わせる〈龍虎〉桐村兄弟。
「なんでもやるっす!」
兄弟同時に言った。
「よく言った!」
桃井は教頭が持って着た紙袋に手を突っ込み、中から新聞紙で包まれた塊を取り出すと、机の上に置いた。重い金属音。
「開けてみろ」
指示通り、隆一と寅泰は席を立つと、机の上の包みの新聞紙を開き、なかの油紙を剥がした。
「こ、これ……」
出てきたのは拳銃だった。新品で、消音器付きだ。
「そいつで、そこらの派出所で警官を弾いてこい。うちのオヤジをパクりやがった報復だ」
「警察官を……?」
「なんだ、隆一、びびってんのか? なら寅泰、おめえがやるか?」
顔を見合わせる兄弟。
「どうした。やるのか、やらねえのか、どっちなんだっ!」
桃井が机に拳を打ちつけ怒鳴りつけた。
「や、やりますっ!」
隆一が銃を手に取った。
「そうだな。練習にちょうどいいか。あいつを撃て」
桃井が指差したのは、教頭だった。
「あいつを? 誰なんすか?」
「なんかヘタうちやがったんすか?」
訊ねる兄弟に、桃井はニヤリと笑う。
「おう。自分の罪を、いたいけな子供になすりつけようとしやがったんだ」
「……そいつは、許せませんね」
隆一が銃を構えた。手が震える。ゲームやらネットやらの、にわか知識で覚えた構え方。照準を教頭の頭に合わせようとするのを、
「一発目から頭を狙うな。的が小せえからな」
桃井が言った。
「まず体だ。どこでもいいから、どっかに当てろ。そしたら動きが鈍くなるから、そこで頭か心臓を狙え」
無言でうなずき、隆一は教頭の体に照準を移した。
「よ、よせっ! 撃つな!」
手を前に突き出し怯える教頭。引き金にかけた隆一の指が、拳銃を握った手が、足が震える。
「早く撃て!」
桃井が怒鳴る。
「なにしてんだ! 殺す覚悟もねえような腰抜けに、俺らの仕事はつとまらねえぞ!」
が、隆一は引き金を引けない。
「ちっ、根性なしが!」
桃井は隆一の手から銃をもぎ取り、寅泰に手渡した。
「寅泰、おめえが撃て!」
「だめだっ!」
寅泰に拳銃を渡そうとした桃井の手を、隆一が払いのけた。
「この野郎!」
空いた手で隆一を殴りつける桃井。ふっとんだ隆一に「兄ちゃん!」寅泰が駆け寄る。
その時。
音もなく鉄扉が開き、薄暗い闇から溶け出すように現れたのは、キビキだった。




