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質屋・籠の備忘録  作者: 甲乙イロハ
懐中電灯
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 4—2の帰りの会は、徒らに長引いていた。

 集めたみんなの給食代がなくなったのだ。

「本当に、誰も知らないんだな」

 クラス担任の教師が言った。みんなで手分けして、あらゆるところを探し回って、見つからなかったのだ。教師が大きくため息を吐く。

「仕方ない」

 顛末を見守るためクラスの端に立つ、背の高い学年主任と視線を合わせる。学年主任は細い顎を引いて応じ、銀縁の眼鏡を長い指先で押し上げた。

「それじゃ、みんな。持ってるものを全部、机の上に出しなさい」

 教室内がざわつく。学校に持ってきてはいけないものを一つも持っきていない生徒など、誰もいない。しかし観念した生徒たちから順に、ランドセルから物を引っ張り出し始める。

「えっ」

 生徒の一人があげた驚きの声に、クラス全員の目が集まる。

 隆一が出した持ち物の中に、七枚の一万円札が剥き出しで入っていたのだ。

「……なんだよ?」

 事態を理解できない隆一が眉をひそめる。

「それ、隆ちゃんの……なんだよね?」

 前の席のクラスメイトが確認する。

「あたりまえだろ」

 笑って言って、気づいた。周りに立ち込める不穏な空気。

「なんだよ?」

 言った。空気は変わらない。

「なんだよ! おれが給食代を盗んだって言うのか。これがその金だって? ふざけんなっ!」

 机を叩いて立ち上がる隆一。ノートや筆箱、教科書が、一万円札と一緒にあたりに飛び散る。女子の悲鳴。ざわつく教室内。

「静かに! 落ち着きなさい!」

 教師が言った。徐々に落ち着きを取り戻していく生徒たち。隆一は荷物を拾おうとはせず、荒っぽく椅子に腰を下ろした。

「いいか、みんな」

 教師はクラス全体を見渡して言った。

「桐村が持ってるのは、クラスの給食代じゃない。みんなから集めた給食代は、千円札と硬貨だけ。一万円札じゃない。だから、桐村が持ってるお金とは別なんだ。絶対に」

 ああ、とクラス全体からため息に似た声が上がる。

「ちょっと良いですか?」

 顛末を眺めていた学年主任が、遠慮がちに、胸の前で手を上げて言った。

「給食代ではないにしても、彼の持っているそのお金は、一体なんのお金なんですか? 小学生が持っているにしては、金額が大きすぎますよ」

「桐村。この後で話を聞くから、職員室へ来なさい。それじゃ、みんな。帰りの挨拶を……」

「待ってください、先生」

 再び手を上げた学年主任が割って入った。

「このまま解散してしまっては、桐村君について生徒たちの間で憶測が飛び交う恐れがあります。みんなの前で説明する機会を、彼に与えてあげるべきかと思いますが」

「それは、後で職員室で……」

「それがいけないのです。オープンにすべきです。事実無根の噂がはびこらぬよう、きちんとクラスメイトたちに話をさせてあげなければ」

「しかし……」

「そうすべきです。彼を信じるなら」

「……わかりました」

 教師はうなずき、教壇に両手をついた。慎重に言葉を選ぼうと、左右に視線を振ってから、

「……桐村。正直に言ってくれ。おまえ、なんでそんな大金を持ってるんだ?」

「おれが盗ったって言うのか?」

「そんなこと言ってないだろ」

 教師の言葉に苛立ちがにじむ。

「桐村はそんなことするやつじゃない。そうだろ? だから、言ってくれ。どうしてそのお金を持ってるのか」

「これは……」

 隆一は昨晩、公園であったことを話した。そこで出会った、名も知らぬ質屋の少年の話。父親の写真が載ったパンフレットと何かを……思い出せないけれど、持っていた何かを交換した時に受け取った七万円。もちろん、周囲の反応は薄い。どころか。

 くすり。

 誰かが小さく笑った。

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