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質屋・籠の備忘録  作者: 甲乙イロハ
ギンガムチェックの包み紙
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「アンティーク……?」

 神父の唐突な問いに戸惑いながらも、ふと思い出した。

「そう言えば、昨日、質屋へ行った時も、巧の話が……」

「イエス! シチヤ!」

 得たりとばかり柏手を打った神父に、真由子が詰め寄る。

「あの店が巧に……巧になにかしたんですか?」

「イエス! その通りデス! アノ店は強力な悪魔の巣窟なのデス! あなたの周りで起きている怪奇現象は、全て奴の仕業なのデス!」

「そ、そうなんですか? でも、店番してたの、ほんの子供でしたよ?」

「ノー。それこそが悪魔の手口! 奴の見かけは子供ですが、実際は何百年、あるいは何千年も生きているモンスターなのデス! ワタシを連れて行ってくだサイ! アイツを滅ぼし、あなたがたを救ってさしあげマス!」

 十字架を掲げ、鼻息荒く宣言する神父に押され、真由子はうなずいた。急ぎ連れ立って、質屋へ向かう。店は昨日と同じように、同じ場所にあった。当たり前なのだが、安堵した。なぜか一夜にして、幻のように消えてそうな気がしていたのだ。

「……アノ店が、ここにあるのですネ?」

 真由子にははっきり見えている質屋が、神父には見えないらしい。的外れな場所を、きょろきょろしている。

「あの……」

 予想外に喜色に満ちた神父の雰囲気に、真由子は戸惑った。倒すべき悪魔の館の前に来た神の使徒の姿とも思えないが……。

「店に入ってくだサイ」

 神父は言った。

「招かれざる客であるワタシは、店へ入れまセン。なんとか奴らを外へおびき出してくだサイ」

「おびき出すって、どうやってですか?」

「アイツは契約書を出して来るはずデス。そうしたら、それを摑んで店を飛び出すのデス。アイツにとって、契約書はなによりの宝。必ず追いかけてきマス」

「は……はい」

 さっき僅かにおぼえた違和感を気のせいだと自分に言い聞かせ、真由子は店に入った。静かな部屋に、ドアチャイムの鈴が涼やかに鳴り響く。

「これはこれは。小林さま」

 カウンターのなかでランプを磨いていたキビキが、慇懃に頭を下げた。

「お品代の受け取りに見えられたのでしょうか?」

 にこやかに尋ねるキビキに、

「あんたの仕業なのっ!?」

 真由子は食って掛かった。

「巧が変になったのは、あんたのせいなのね? そうなんでしょっ!?」

「変……ですか? ああ、そう。桂木巧さまよりお預かり致しましたお品が質流れとなりました際に、小林さまと過ごした思い出一式も頂戴致しましたから……」

「……本当に、全部あんたのせいなのね」

 そんなことが本当にできるのか。真由子は驚いたが、驚きを怒りが上回った。

「勝手なことしないでっ! この、悪魔っ!」

 わめく真由子に、キビキは肩をすくめる。

「そのように仰られますのは、甚だ心外です。誤解のないよう申し上げますが、当店はこの通り、桂木さまのご希望に応じたまででして……」

 キビキはカウンターの下から契約書を取り出した。

「そんな紙切れがなによっ!」

 怒りが収まらず、つかつかと歩み寄って来た真由子を、

「まあまあ。落ち着いてお聞きください」

 と、なだめるキビキ。その冷静な物言い、動じない物腰に、子供らしさや可愛げなどは微塵もない。

「受け取り指定人が金銭の受け取りを拒否することは可能ですよ」

 手に提げた契約書の一文を指先で示しつつ、キビキは言った。

「……えっ?」

 文字が細かすぎて読めない。真由子は契約書に鼻先が触れるほど顔を近づけた。

「こちらに記載の通りです。小林さまが対価の受領を辞退されました場合、桂木巧さまからお預かりしておりますお品をお返し致します。同時に一連の記憶も戻りますが、如何致しましょうか?」

「そ、そんなことできるの?」

 うなずくキビキ。真由子の怒りが、すう、と引いていく。

「そ、それじゃ、さっさと元通りに……」

 真由子は即答しかけて、やめた。なにもかも忘れた方が、巧にとっては幸せかもしれない。いや、そもそも巧自身、なにもかも忘れたいと望んだのではないのか?

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