13
天守閣を囲う庭園には池があり、朱塗りの橋が架けられている。
栗餡がたっぷり詰められた饅頭にかじりつきながら、蛮鷹は一人、橋の真ん中の欄干に座っていた。月が雲に隠れ、輝きを増した星々を見上げていると、天地が逆さになって、自分が空へ向かって落ちていくように感じる。その感覚が蛮鷹は好きだった。
きし。
池の鯉が跳ねたのではない。橋板の軋む、足音だ。誰かが橋を渡ってくる。
きし。きし。
「……父ちゃん?」
暗闇に尋ねた途端、足音が止まった。欄干から橋桁へ跳び降り、目を凝らす。
雲が晴れた。月明かりに照らされて浮かび上がったのは、白の単衣に白袴姿の少女だった。七本の簪で結わえられた豊かな銀髪。驚いて見開かれた円らな瞳に、少し上向き加減の小さな鼻。ふっくらした唇が、柔そうな両手で覆われる。
「なんだ、おまえ?」
蛮鷹が声をかけると、白装束の少女は慌てて踵を返した。
「おい、待てよ!」
走り去ろうとした少女の背に向かって、
「なんで泣いてんだよ!」
蛮鷹が叫んだ。少女の足が止まる。
「ここ、おまえの場所なんだろ? ごめん。俺、もう行くから」
立ち去ろうとした蛮鷹を、
「待って!」
振り返った少女が引き止めた。首をかしげる蛮鷹に、
「……一人になるのは、嫌なのです」
少女は伏し目がちに呟いた。
「わたくしは、いつも一人ぼっちだから……」
「父ちゃんと母ちゃんは? いないのか?」
「お父様は一緒に暮らしてはいるけれど、忙しくて滅多に会えません。お母様は亡くなりました。去年……病で」
「そっか。そりゃ、さびしいな」
少女はうなずいた。袴の太腿あたりをぎゅっと握る。
「俺はいつも父ちゃんが一緒にいるから寂しくないけどな。友達は?」
頭を振る少女。
「じゃあ、おれが友達になってやろうか?」
「まことですか!?」
目を輝かせる少女。
「今度、うちの工房に遊びに来いよ。おれ、鍛治師なんだ」
「ぜひに!」
少女は叫んだ。
「父がいつも、火司はこの国の支えであると」
「わかってるじゃん、おまえの父ちゃん」
蛮鷹と少女は揃って破顔した。
「それでは、まいりましょう」
少女は蛮鷹の手を取ると、橋の反対側へ向かって歩き出した。
「まいりましょう、って……今からか?」
手を引かれ、戸惑う蛮鷹に、うなずく少女。
「今日はまずい。お姫様の名前が発表されるまで、お城の中にいなくちゃ駄目なんだ」
「なら、それまでに帰れば良いのです」
「駄目だって。城門を通る時に名前を聞かれるだろ? そしたら、城の外に出たのが父ちゃん……じゃねえや。親方にばれちまう」
「あら。簡単よ。門を通らなければ良いのです」
少女は悪戯っぽく微笑んだ。




