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質屋・籠の備忘録  作者: 甲乙イロハ
婚約指環
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 大声をあげながら蛮鷹の後ろに並んだのは、少し年嵩の少年だった。手招きして、仲間たちを呼んでいる。ほどなく、同い年らしき少年少女が二人ずつやって来て列についた。五人全員、煌めく金銀糸が縫い込まれた装束をまとい、それぞれに豪奢な装飾品で総身を着飾っている。男女構わず頬と唇に薄く朱を差しているのは当代の流行りらしい。


「だいたい、あいつってさあ……」


 口々に学び舎での出来事を言い交わしている。この場にいない誰かの悪口。それに同調し、罵り、誇張し、小馬鹿にし、笑い合う。


(さっきの文官みたいだ)


 内心そう思った蛮鷹は、思わず声を出して笑ってしまった。後ろに並んだ少年少女たちの視線が集まる。


「おまえ。いま笑ったよな?」


 年嵩の少年の一人が言った。一番のっぽで、目つきが鋭い。


「学舎じゃ見ない顔だな。なんて名だ?」

「……蛮鷹」

「蛮……? 聞かない氏姓だ」

「部民だよ。火司元の」

「ああ。なんだ、工人か!」

「道理で、なんか汗臭いと思ったんだ」


 少年たちは顔を見合わせて笑った。少女たちは扇で鼻と口を隠し、くすくす笑う。


「おまえ、チビだけどここに来てるってことは、もう元服してるんだよな。鍛治師なら、僕たちに何かつくってくれよ」

「僕は短刀がいいな。熟した果物でも、よく切れるやつだぞ」

「わたくしには白銀で簪を。蝶の切金を差してくださる?」

「僕は竜頭の文鎮かな」

「わたくしは……まあ、なんでもいいわ。高く売れるものなら」


 口々に好き勝手を言う少年少女に、


「俺たちが鍛造つくるものは、それぞれにきちんと決められてるんだ。蛮家うちは武器と防具を……」

「武器と防具!」


 少年少女は一斉にふき出した。


「この平和な国でそんなもん、いつ使うんだよ!」

「まったく無駄遣いにもほどがあるわ」

「だいたい、百年も実戦で使われてない武具なんて、本当に役に立つのか?」

「まあ儀礼用か、せいぜい外国への貢ぎ物ってとこだね」

「そんな贈り物、わたくし、頼まれたってほしくありませんわ」


 視線で示し合わせ、一斉に爆笑する五人組。


(駄目だ。我慢しろ)


 蛮鷹は拳を握り、自分に言い聞かせた。


(暴れちゃ駄目だ。暴れたら、また父ちゃんに……親方に迷惑がかかる)


「どうした、ぼうや?」

「泣く? 泣くのか? おいおい、赤ん坊じゃないんだから。勘弁してくれよ」


 嘲笑って顔を覗き込む少年たちから、蛮鷹は視線を逸らした。


「……俺たちは」


 声が震えた。怖気からでないことを示すため、向けられた視線を正面から受け止める。


「俺たち鍛治師は、つくるだけじゃない。武具が本当に役に立つか、毎日、真剣で試してる。役に立たないなんてことはありえねえ」

「へえ。そいつはすごい」

「お前らは、なにかの役に立ってるのか?」

「なんだ、おまえ?」


 剣呑な面持ちで睨みつける少年たちを、蛮鷹は臆せずに睨み返した。日々、大人に混じって鉄を打ち、火を入れ、刃を研ぎ、武術を磨いているのだ。こんな青瓢箪ども、何人いても負ける気がしない。


「やだ。見て、この子!」


 少女の一人が蛮鷹を指差して笑った。


「なつかしいの着てるじゃない!」

「ほんと! 飛燕染めって、姫様のご生誕の頃に流行った型よ!」

「まだ残ってたのねえ」

「こんなの、よく平気で着られるよな。恥ずかしくないのか?」


 無意識に、なにかを叫んだと同時に突進した蛮鷹を、たくましい腕が遮った。


「こんなところにいたのか、鷹!」


 父、蛮鷲だった。そのまま胸元まで抱き上げる。


「あっちの卓に、でっかい菓子が出てるそうだ。一緒に喰いに行こう」


 蛮鷹を抱えた蛮鷲は、隣の部屋へ向かって大股で歩いて行く。


「おお、怖い怖い」


 背後で少年たちが囃した。


「これだから工人は。野蛮で困るよ」


「野蛮の蛮氏だもんな」


 笑い合う五人組に怒声を上げようとした蛮鷹の口を父が塞ぐ。


「……耐えろ」


 怒りに任せて暴れながら蛮鷹は父を睨みつけた。 が、一瞬で血の気が引き、我に返る。

 鍛治場でさえ見たことのない形相の父が、そこにいた。

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