表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コントロール・アウト  作者: 柴門秀文
7/118

坑道を下る2-4

〈ヤバい〉と禄膳は背筋が凍る思いがした。

 工場の留守番をしている爺さんに気付かれたら困る。

 耳も遠くなって、すぐに布団に入る年寄りだった。だが、万が一にも気付いたら、管理者に連絡を入れる。

 音を立てた工具を押さえて、禄膳は身動きを止めた。息を堪える。自動加工機が夜間運転を続けているから、切削音は聞こえても違和感がない。

 だが、工具が立てる音は、不審者の存在を意味する。

 守衛ではなく留守番の名目で働いている。いかに、シルバー人材でも、不審者の気配がしたら、確認は取るはずだ。

 留守番の動きを感じたら、隠れるつもりだ。都合よく、機械は停まっている。

 新藤の気配が消えていた。いつも同じだ。いつの間にか現れて、いつの間にか消える。

〈幻覚なんかも知れんな〉と、思ってみた。

 禄膳は慌てて頭を振って打ち消した。

 気が狂れるほど追い込まれてはいない。それに、繊細な神経を持ち合わせるほど優秀な家系ではない。

 しばらく息を潜めた。留守番の動きはなかった。

 禄膳は切削の開始位置を調整した。旋盤のスイッチを入れる。砲身が回転を始めた。刃具の食い込みは一切なかった。

 時間を掛けて、次のライフリングが刻み込まれていく。

 感情に任せて感覚を鈍らせるわけにはいかなかった。

 金属が焼ける臭いがした。禄膳は緊張した。

 バイトが当たる部分から白煙が立ち昇った。油差しを掴んで砲身を覗き込んだ。

 フック・カッターの先端部分を冷却するために、切削油を注いだ。切削カールが燃え出しては一大事だった。火事を起こしては、すべてが台無しになる。

 解雇日まで、あと一週間だ。砲身の加工だけは終わらせる必要があった。砲弾は、廃止になった坑道の奥から発見した。騒ぎを起こすだけの数は充分にある。

 少しは世間を見返せるはずだ。

『何ができるか判らない。だが、少しくらいは注目されるからな。お前だって、生涯に一度くらいは注目されてもいいだろう』

 姿を消していた新藤が、闇の中で声を潜めて笑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ