坑道を下る2-3
禄膳は経営不振を理由に解雇を言い渡された。
「まだ、53歳ぞ。せめて、定年までは雇ったらどげんなんや」
握った拳で、禄膳は膝を叩いた。怒りを噛み締めた。
闇の中で、新藤が意地悪く笑った。
『口煩い面倒な古株を切り捨てたかったんだ。生意気な態度で会社に嫌われるから悪いんだぞ』
「若造だからしゃ、古株に太か顔ばされたくなかっただけたい」
肉体的に問題があると言われれば、まだ我慢もできた。体面を保つために、会社は、ヤンチャしていた過去を引き合いに出してきた。
『お前が生きてきた責任だから、自業自得だ。だが、確かに卑怯な奴だな』
「経費削減しか頭になかくしぇに。『暴対法にも配慮した』っちな、よくも言ったもんだ」
闇の中で新藤が苦笑する気配がした。怒り出した禄膳に手を焼きたくないのだ。
『確かに、離脱者の締め付けなど、本来の意味から大きく外れているな。だがな、一か月前に解雇予告も出されている。いまさら文句は言えんな』
「すべて形通りに済ませればよかっち、安易に考えとる。辞めさせられる俺たちが背負う重荷なんか、これっぽっちも考えちゃおらん」
〈くそっ、くそっ〉と、頭の中で繰り返した。
やり場のない悔しさで、禄膳は作業台の上を叩いた。
置かれた工具や治具が、ぶつかり合って金属質の甲高い音を立てた。