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コントロール・アウト  作者: 柴門秀文
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坑道を下る2-2

「戦車砲だけん、ライフル銃だけん、基本は砲身ばい。要は弾丸ば砲身に挿入し、炸薬ば爆発させるだけ。砲身しゃえ完成しゅれば、あとは簡単だ。嵌め合いん微調整の終われば、誰やっち組み立てられる構造だ。あとは、クソのごたる職場に未練ば残しゅ必要はなか」

『口先だけでは、困るぞ。納期の厳守だけでなく、精度も確保してくれよ』

 新藤の言葉にカチンと来た。だが、考え直して、禄膳は「ふん」と鼻で笑った。

「修理部品ん加工ば専門に、油に塗れてきよったんや。素人な、黙っち任しぇてくれればよか。間違いはなかったっち証明してみしぇるから」

『自信だけは一人前だな。あんたは、技術を若手の旋盤工に教えてやればよかったんだ。なまじ嫌われるから、足元を掬われる。数値制御も使えない老いぼれは、不要だ、とな』

 老いぼれと呼ばれて、禄膳は思わず口籠った。だが、意地でも認めるつもりはない。

 好きで年を取ったわけではない。自分では若くてヤンチャだった時代と何も変わっていないと思っている。

 だが時間だけは、確実に過ぎていく。

小便(しょんべん)たれんガキの、なんば言うか」

 口を曲げ、禄膳は唾を吐いた。続けて、意地っ張りの主張が口から飛び出す。

「嵌め合い時ん微調整な、感覚の勝負たい。視覚だけに頼らんでん、触覚、聴覚、ときには嗅覚だって自在に使う」

『知っているさ、少しくらいの知識はあるからな』

 揶揄うような新藤の合いの手に、口を歪めながらも頷いた。

「0.1㎛の加工精度ば達成しゅるためにな、数値制御ん自動機では力不足たい。数値だけん理論設定でなく、多方面からも予測不能な条件の全部が解消さるる必要のあっけん」

『要するに、職人仕事は、人間の可能性を最大限に活かす技術で成り立っている。だからこそ、人間が造った機械が、人間を超えるとは思えない。と、言いたいんだな』

 興奮し、鼻息を荒くしながらも、禄膳は認めてみせる。

「どげん条件下だけん、機械は補助的な道具であるべきたい。手仕事の、自動加工に負ける未来やらなんやらあっては、つまらんたい。若い奴らには真実の解らんけん」

『そう興奮するな。あんたは、あんたなりに教えようとしたんだな』

 荒くなる息を、禄膳は意識して鎮めた。

「技術ん継承については努力したつもりちゃ。職人ん仕事は言葉やマニュアルで説明できるもんではなかとよ。親方ん背中ば見ながら、自分で盗むものたい」

『叱られて、何度も繰り返す意欲が新しい工員たちにはなかった』

 禄膳は膝の上に頭を落とした。

「そん通りたい」と、悔しい言葉が口を吐く。

 手作業が優れていると主張しても、無駄な足掻きだ。手作業が優位に立つのは、あくまでも修理部品の嵌め合い時の微調整だ。決して全体ではない。

 新規の加工における精度の追求は、設計における形状の変更で行われる。充分に自動化が可能だ。修理部品の追加工が必要な部分は、新規のユニット交換で代用できる。

 むしろ、新規ユニットの交換のほうがコストの削減に繋がり、メーカーにとっては利益が上がる。だが、口に出して認めたくはなかった。


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