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コントロール・アウト  作者: 柴門秀文
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坑道を下る2-1

 禄膳(ろくぜん)丈雄(たけお)は長尺物の大型旋盤を回していた。

 二層構造の筒状に加工された鋼鉄の内径を削る。口径105ミリ、砲身長51口径長の砲身(バレル)に28条右回りの螺旋状の(ライフリング)を刻む。

 量産するメーカーであれば、ライフル・ボタンと呼ばれる治具を用いる。ライフリングの条数に合わせたタングステン・カーバイトのボタンを銃腔内に通す方法だ。

 今回に例えれば28条のライフリングを一度に刻む。だが、ピッチのズレが出やすい。

 一条ずつ、フック・カッティングを正確なピッチで刻んでいく方法を、禄膳は選択した。初仕事の禄膳には、安心できる方法だった。

 時間は掛かるが、精度を上げる自信があった。旋盤工の経験と技術は充分だった。

 照明は点いていた。だが、視界は薄暗かった。

 切削チップが立てる微かな音の違いに、禄膳は耳を澄ました。

 スイッチ・レバーに掛けた指に神経を集中させる。伝わる震動が変わったら、切削を停止し、次の加工に入る。

『大丈夫なのか。期限が迫っているぞ。工期が遅れてはいないか』

 薄闇の向こう側から、〝新藤(しんどう)〟が恫喝(どうかつ)じみた口調で話し懸けてくる。実体なのは判らない。周囲が闇に落ちると、勝手に新藤から近付いてくる。

 13条目のフック・カッティングを開始した。砲身が回転を始め、順調に安定した切削音(トーン)を立てた。

 柱に下げたカレンダーに、禄膳はチェックを入れた。

 解雇を予定された日付までに、主要な部品の切削だけは終わらせる必要がある。大型旋盤以外ならば、他にも加工機が準備がされている。

「焦らなくてもよか。ライフリングん切削の終われば、あとは小物部品ん加工だけだ」

『ずいぶんと部品数が少なく感じられるが、これだけの部品で戦車が造れるのか?』

 最初から新藤は禄膳の知識を疑っている。禄膳は顔を(しか)めた。信用しないのならば、最初から頼まなければいい。依頼がなければ、面倒な加工など、したくはない。

 加工が終了した。旋盤を停めて、禄膳は近くに置いたパイプ椅子に腰を下ろした。

「可動部分は油圧ショベルば利用しゅる。大半ん部品な、市販しゃれとる規格品で賄えるからな。主要な大物部品ば加工しゅれば、あとは組み立てるだけだ」

『旋盤を使用できる期間が限られている。間違いなく完成できるなら問題はないがな』

 新藤が言葉の最後を曖昧にする。いつもの話し方だ。脅迫じみた態度が気に喰わない奴だ。


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