坑道を下る1-3
「何が起きたんですか? どうなっているの」
背中を強く打っていた。鈍い痛みを感じた。足が上を向いている。
大きな石が隣に転がっていた。身体が潰れてはいなかった。
心配した繁原が、頭上からライトで夏海を照らした。
「慌てるな。ゆっくりと確かめろ。手足は折れていないか」
「手足は無事です。ちゃんと付いています」
顔を上げて天井を見上げた。ぽっかりと空いた穴から心配する繁原が見えた。
水平に伸びた別の坑道だった。石炭記念公園に向かって深い闇が続いていた。
「高低差が少なくて助かったな。天井と一緒に落下したから、思ったよりも埋もれていない」
「すみません。自分が軽率でした」
不意に嫌な臭いが鼻を突いた。立ち上がろうと、地面に手を突いた。ねっとりと生温い感触が、掌に触れた。
慌てて、夏海は立ち上がった。足元をマグ・ライトで照らす。
「どうした? 何か見つけたか」
光の中に、血溜まりが浮かび上がった。周囲を照らした。
「誰かが倒れています。大量に血が流れています」
声が震えた。後退りしようとした足が、思うように動かない。
倒れている人物は二人だった。頭を突き合わせた形に俯せで倒れていた。肩幅が広い背広の男と、白いシャツの少年だ。
どちらも、後頭部に銃創が残されていた。射出創に当たる顔が大きく崩れていた。手足に縛られた跡がある。
「状況はどうなんだ。ここからは見えないが」
「二人、倒れています。後頭部に銃創が確認できます」
話しながら、夏海は顔を背けた。言い知れぬ恐怖に襲われていた。
マグ・ライトの光を浴びた少年の眼が、虚ろな光を反射させた。